
現代の都市に林立するビルディングは、もはや単一の目的で利用されることは稀です。オフィス、商業施設、飲食店、病院、ホテル、さらには住居まで、多種多様な機能が一つの建物の中に集積しています。このような建物は、利便性が高い一方で、火災が発生した際の複雑なリスクをはらんでいます。
消防法では、このような多機能な建物を「複合用途防火対象物」と定義し、その特性に応じた厳格な火災予防対策を義務付けています。特に重要なのが、建物全体の安全管理を担う「統括防火管理者」の存在です。今回は、消防法施行令別表第一の用途区分を紐解きながら、複合用途防火対象物の実態と、統括防火管理者の選任が必要となる基準、そしてその法令根拠について、皆さんが疑問に感じるポイントを深掘りして解説していきます。
まず、「複合用途防火対象物」とは、消防法上の「防火対象物」のうち、政令で定める二以上の用途に供されるものを指します。これは、消防法施行令別表第一の(16)項に掲げられています。この(16)項は、さらにその用途の組み合わせによって(16)項イと(16)項ロに細かく区分されています。
この区分は、火災発生時の危険度や、建物利用者の特性(不特定多数の出入り、避難困難者の有無など)を考慮したもので、防火管理上非常に重要な意味を持ちます。
(16)項イに該当するのは、複合用途防火対象物のうち、その一部が「特定用途防火対象物」に供されているものです。
ここでいう「特定用途防火対象物」とは、政令別表第一の(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項、または(9)項イに掲げられる用途を指します。具体的には、以下のような用途が含まれます。
(16)項ロに該当するのは、(16)項イ以外の複合用途防火対象物です。
つまり、二つ以上の用途が混在しているものの、その中に上記のような特定用途防火対象物((1)項~(4)項、(5)項イ、(6)項、(9)項イ)が含まれていない建物がこれに該当します。
例えば、事務所と工場が複合しているような建物などが考えられます。
複合用途防火対象物では、複数のテナントや事業者がそれぞれ独立した管理権原を持っていることが一般的です。しかし、建物全体としての火災予防対策は、個々の管理権原者がバラバラに行うだけでは不十分であり、むしろ連携不足が致命的な結果を招く可能性があります。
そこで、消防法では「統括防火管理者制度」を設け、建物全体の防火管理を一体的かつ効果的に推進することを義務付けています。この制度の法令根拠は、消防法第八条の二第一項に定められています。
同項によると、統括防火管理者の選任が必要となるのは、以下のいずれかに該当する防火対象物で、その管理について権原が分かれている場合です。
統括防火管理者の制度は、高層ビル等の被害や、雑居ビルでの火災が相次いで発生したことを受け、防火・防災体制を強化するために改正された消防法令によって義務付けられました。
統括防火管理者は、建物全体の防火・防災管理業務を推進するため、各テナント等の防火管理者と連携・協力しながら、以下の業務を行わなければなりません。消防法第八条の二
統括防火管理者を選任した場合は、遅滞なくその旨を所轄消防長または消防署長に届け出なければなりません。これを解任したときも同様です。万が一、統括防火管理者が定められていないと認められる場合や、その業務が法令の規定または消防計画に従って行われていないと認められる場合は、消防長または消防署長から管理権原者に対し、統括防火管理者を定めることや、必要な措置を講ずることなどを命じられることがあります。この命令に対しては、標識の設置などによる公示が行われることがあります。
複合用途防火対象物における火災予防対策は、多岐にわたる用途と複数の管理権原が絡み合うため、非常に複雑です。しかし、統括防火管理者制度は、このような複雑な環境下においても、建物全体として一貫性のある防火管理体制を確立し、火災リスクを最小限に抑えるための重要な柱となります。
建物の関係者全てが、この統括防火管理者制度の意義を理解し、協力し合うことが、利用者や従業員の安全、そして大切な財産を守ることに繋がります。
ご自身の建物が複合用途防火対象物に該当するか、統括防火管理者の選任が必要な基準を満たしているかなど、ご不明な点がありましたら、管轄の消防署(東京消防庁の場合は予防課など)または私たちのような消防法に詳しい行政書士まで、お気軽にご相談ください。皆様の建物の安全確保を全力でサポートいたします。
行政書士は、これらの複雑な法令を正確に解釈し、お客様の状況に応じた最適な手続きをサポートする専門家です。
「どこから手をつけて良いか分からない」「この基準で合っているか不安だ」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度、行政書士にご相談ください。計画段階から専門家が関わることで、時間やコストの無駄を省き、法令違反のリスクを未然に防ぐことができます。
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