自衛消防訓練は年2回必要?総合訓練・部分訓練の回数を消防法と東京都火災予防条例から解説
防火管理者を選任している建物では、消防計画に基づいて自衛消防訓練を実施する必要があります。
しかし実務では、次のような疑問がよくあります。
- 自衛消防訓練は必ず年2回実施しなければならないのか
- 年1回では足りないのか
- 総合訓練を年2回行う必要があるのか
- 部分訓練でも年2回の訓練として認められるのか
- 消火訓練・避難訓練・通報訓練は、それぞれ年何回必要なのか
結論からいうと、
防火管理が必要な防火対象物だからといって、すべての建物で一律に年2回の訓練義務があるわけではありません。
結論
特定用途防火対象物では、
消火訓練・避難訓練を年2回以上実施する必要があります。
ただし、
総合訓練そのものを年2回実施しなければならないわけではありません。非特定用途防火対象物では、原則として
消防計画に定めた回数に従います。
飲食店、物品販売店舗、ホテル、病院、福祉施設、地下街、特定用途を含む複合用途防火対象物などの
特定用途防火対象物については、消防法施行規則により、
消火訓練及び避難訓練を年2回以上実施する必要があります。
この記事のポイント
- 特定用途防火対象物では、消火訓練・避難訓練は年2回以上必要
- 非特定用途防火対象物では、原則として消防計画に定めた回数が基準
- 法令上「総合訓練を必ず年2回」と定めているわけではない
- 総合訓練または消火・避難を含む部分訓練で、年2回以上の訓練計画を組むのが実務上安全
- 東京都では、自衛消防訓練実施結果記録書を作成し、3年間保存する必要がある
自衛消防訓練とは
自衛消防訓練とは、火災、地震その他の災害が発生した場合に、建物の関係者が初期消火、通報連絡、避難誘導、救出・救護、消防隊への情報提供などを適切に行うための訓練です。
火災が発生したとき、消防隊が到着するまでの初動対応は、建物の関係者によって行われます。初期消火、119番通報、館内放送、避難誘導、逃げ遅れの確認、消防隊への情報提供などが遅れると、人的被害や物的被害が大きくなる可能性があります。
そのため、防火管理者が選任されている防火対象物では、消防計画に基づいて、定期的に自衛消防訓練を実施することが重要です。
自衛消防訓練は年2回必要なのか
自衛消防訓練の回数を考えるときは、まず対象となる建物が
特定用途防火対象物に該当するか、
非特定用途防火対象物に該当するかを確認する必要があります。
| 区分 |
消火訓練 |
避難訓練 |
通報訓練 |
考え方 |
| 特定用途防火対象物 |
年2回以上 |
年2回以上 |
消防計画に定めた回数 |
消火訓練・避難訓練は法令上、年2回以上が必要 |
| 非特定用途防火対象物 |
消防計画に定めた回数 |
消防計画に定めた回数 |
消防計画に定めた回数 |
一律に年2回とはされていない |
| 東京都の一部の地下駅舎等 |
年2回以上 |
年2回以上 |
消防計画等による |
東京都火災予防条例による上乗せ規定に注意 |
したがって、
「防火管理者を選任している建物は、すべて年2回必要」と単純に考えるのは正確ではありません。
正しくは、
特定用途防火対象物では消火訓練・避難訓練を年2回以上実施する必要がある、と整理します。
特定用途防火対象物では消火訓練・避難訓練が年2回以上必要
消防法施行規則第3条第10項では、一定の特定用途防火対象物について、防火管理者が消火訓練及び避難訓練を年2回以上実施しなければならない旨が定められています。
対象となる主な用途は、次のようなものです。
- 劇場、映画館、演芸場、観覧場など
- 公会堂、集会場など
- キャバレー、ナイトクラブ、遊技場、カラオケボックスなど
- 飲食店など
- 旅館、ホテル、宿泊所など
- 病院、診療所、社会福祉施設など
- 蒸気浴場、熱気浴場など
- 物品販売店舗など
- 特定用途を含む複合用途防火対象物
- 地下街など
これらの用途では、不特定多数の人や避難に配慮を要する人が利用するため、火災時の避難誘導や初期消火の重要性が高くなります。そのため、年2回以上の消火訓練・避難訓練が求められます。
非特定用途防火対象物では年1回でよいのか
事務所、共同住宅、学校、工場、倉庫など、非特定用途防火対象物に該当する場合は、特定用途防火対象物のように、消防法施行規則上、消火訓練・避難訓練を一律に年2回以上実施しなければならないとは整理されません。
この場合は、
消防計画に定めた回数に従って訓練を実施することになります。
注意点
非特定用途防火対象物であっても、消防計画に「年1回実施する」と定めていれば、その回数に従う必要があります。消防計画に定めた訓練を実施していない場合は、消防計画に基づく防火管理業務が適切に行われていない状態となります。
また、消防計画に「年1回」と定めていれば年1回で足りる場合でも、防火管理の実効性を考えると、少なくとも年1回、可能であれば年2回程度の訓練計画を組むことが望ましいといえます。
特に、テナントの入れ替わりが多い建物、従業員の異動が多い事業所、来客が多い施設、夜間・休日の勤務体制がある施設では、年1回だけでは実際の初動対応が定着しないことがあります。
総合訓練とは
総合訓練とは、火災などの災害発生を想定し、発見、通報、初期消火、避難誘導、消防隊への情報提供などを一連の流れで実施する訓練です。
たとえば、次のような流れで行います。
- 火災の発見
- 非常ベル・館内放送による周知
- 119番通報
- 初期消火
- 避難誘導
- 逃げ遅れの確認
- 消防隊への情報提供
- 訓練後の反省・改善点の確認
総合訓練は、個別の動作だけでなく、火災発生から消防隊到着までの流れを確認できるため、自衛消防体制の実効性を高めるうえで非常に有効です。
部分訓練とは
部分訓練とは、自衛消防活動の一部に重点を置いて行う訓練です。
| 部分訓練の種類 |
主な内容 |
| 消火訓練 |
消火器、屋内消火栓などを使用した初期消火の訓練 |
| 避難訓練 |
避難経路、避難口、階段、避難器具、避難誘導方法の確認 |
| 通報訓練 |
119番通報、館内放送、関係者への連絡、消防隊への情報伝達の訓練 |
| 応急救護訓練 |
AED、心肺蘇生、三角巾、搬送方法などの訓練 |
| 地震想定訓練 |
地震発生時の初動対応、身の安全確保、火気確認、避難行動の確認 |
部分訓練は、短時間でも実施しやすく、従業員やテナントが参加しやすいという利点があります。
総合訓練は年2回必要なのか
ここが実務上よく誤解される部分です。
法令上、特定用途防火対象物について求められているのは、原則として「消火訓練及び避難訓練を年2回以上」実施することです。
つまり、
「総合訓練を必ず年2回実施しなければならない」という意味ではありません。
年2回の訓練については、次のような組み合わせが考えられます。
| 年間の訓練パターン |
特定用途防火対象物での考え方 |
| 年2回とも総合訓練 |
消火訓練・避難訓練を含んでいれば適合しやすい |
| 年1回は総合訓練、年1回は消火・避難を含む部分訓練 |
実務上取り組みやすく、適合しやすい |
| 年2回とも消火・避難を含む部分訓練 |
消火訓練・避難訓練をそれぞれ年2回実施していれば適合し得る |
| 年1回だけ総合訓練 |
特定用途防火対象物では不足する可能性が高い |
| 年2回実施しているが、避難訓練が1回だけ |
特定用途防火対象物では避難訓練の回数不足となる可能性がある |
大切なのは、訓練の名称ではなく、
消火訓練と避難訓練がそれぞれ年2回以上実施されているかです。
部分訓練は年何回必要なのか
部分訓練の回数についても、用途区分によって整理が異なります。
特定用途防火対象物の場合
特定用途防火対象物では、消火訓練と避難訓練を年2回以上実施する必要があります。
通報訓練については、消防法施行規則第3条第10項の年2回義務の対象としては、消火訓練・避難訓練と同じ整理ではありません。ただし、消防計画に通報訓練の実施回数を定めている場合は、その消防計画に従う必要があります。
実務上は、消火・通報・避難を一体として訓練することが多いため、
年2回の訓練の中に通報訓練も含めておくと、防火管理体制として説明しやすくなります。
非特定用途防火対象物の場合
非特定用途防火対象物では、消火訓練、避難訓練、通報訓練の回数は、基本的に消防計画に定めた回数に従います。
ただし、消防計画に定めた訓練を実施していない場合は、消防計画に基づく防火管理業務が適切に行われていない状態になります。防火管理者は、消防計画の内容を確認し、実際の訓練実施状況と合っているかを定期的に見直す必要があります。
東京都火災予防条例との関係
東京都内の防火対象物では、消防法だけでなく、東京都火災予防条例及び同施行規則の確認も重要です。
東京都火災予防条例では、火災、地震その他の災害時に、初期消火、通報連絡、避難誘導、消防隊への情報提供等を効果的に行うため、自衛消防の体制や訓練に関する規定が置かれています。
また、東京都火災予防条例第50条の3第4項では、一定の地下駅舎等について、消火訓練及び避難訓練を年2回以上実施することが定められています。
東京都内の実務上の注意
東京都内で自衛消防訓練を実施する場合、訓練前に自衛消防訓練通知書を管轄消防署に提出する運用が一般的です。また、訓練後は自衛消防訓練実施結果記録書を作成し、訓練実施日から3年間保存する必要があります。
訓練結果記録書は、原則として消防署へ提出する書類ではなく、事業所側で保存する書類です。立入検査等の際に確認されることがありますので、訓練の実施状況、参加者、訓練内容、反省点、改善事項を記録しておくことが重要です。
自衛消防訓練の実務上のおすすめ年間計画
特定用途防火対象物では、次のような年間計画にすると、法令上の回数を満たしやすく、実務上も運用しやすくなります。
| 時期 |
訓練種別 |
訓練内容 |
ポイント |
| 上半期 |
総合訓練 |
火災発見、119番通報、初期消火、避難誘導、消防隊への情報提供 |
自衛消防隊の役割分担を確認する |
| 下半期 |
部分訓練 |
消火訓練、避難訓練、通報訓練 |
前回の訓練で不十分だった点を重点的に確認する |
このように、
年1回は総合訓練、もう1回は消火・避難・通報を含む部分訓練とすると、多くの事業所で実施しやすい計画になります。
もちろん、施設の用途、規模、収容人員、従業員数、営業時間、夜間体制、避難困難者の有無などによって、必要な訓練内容は変わります。
訓練前後に必要な手続き
東京都内で自衛消防訓練を実施する場合、一般的には次の流れで進めます。
- 消防計画で訓練の時期・内容・回数を確認する
- 訓練日時、参加者、想定火災、訓練内容を決める
- 自衛消防訓練通知書を作成する
- 訓練実施前に管轄消防署へ届け出る
- 訓練を実施する
- 訓練後に自衛消防訓練実施結果記録書を作成する
- 実施結果記録書を3年間保存する
- 訓練で判明した問題点を次回訓練や消防計画の見直しに反映する
訓練は、実施するだけでは不十分です。実施後に、避難誘導がスムーズにできたか、通報内容に不足がなかったか、消火器の設置場所を従業員が把握していたか、避難経路に障害物がなかったかなどを確認し、改善につなげることが重要です。
よくある誤解
誤解1:防火管理者がいる建物はすべて年2回必要
これは正確ではありません。年2回以上の消火訓練・避難訓練が明確に求められるのは、主に特定用途防火対象物です。非特定用途防火対象物では、消防計画に定めた回数が基準になります。
誤解2:総合訓練を年2回しなければならない
法令上、特定用途防火対象物で求められるのは、消火訓練・避難訓練を年2回以上実施することです。総合訓練を年2回実施することは望ましい運用ですが、必ずしも「総合訓練」という名称で年2回行わなければならないわけではありません。
誤解3:通報訓練も必ず年2回必要
通報訓練については、消火訓練・避難訓練と同じ形で一律に年2回義務と整理するのではなく、消防計画に定めた回数を確認する必要があります。ただし、実務上は通報訓練も年2回の訓練に含めることが望ましいです。
誤解4:訓練結果は消防署に必ず提出する
東京都では、訓練前の自衛消防訓練通知書は消防署に届け出ますが、訓練後の自衛消防訓練実施結果記録書は、原則として消防署へ提出するものではなく、3年間保存する書類です。
まとめ
自衛消防訓練の回数は、対象となる防火対象物の用途によって整理する必要があります。
| 確認事項 |
結論 |
| 特定用途防火対象物か |
消火訓練・避難訓練を年2回以上実施する必要がある |
| 非特定用途防火対象物か |
消防計画に定めた回数に従う |
| 総合訓練は年2回必要か |
総合訓練そのものを年2回とする義務ではない |
| 部分訓練でもよいか |
消火訓練・避難訓練を含んでいれば年2回の訓練として整理し得る |
| 通報訓練は年2回必要か |
消防計画に定めた回数によるが、実務上は年2回に含めるのが望ましい |
| 訓練結果記録書 |
作成し、3年間保存する |
特定用途防火対象物では、年1回だけの訓練では不足する可能性が高いため、少なくとも年2回、消火訓練・避難訓練を実施する計画を立てる必要があります。
一方で、重要なのは単に回数を満たすことではありません。火災が発生したときに、従業員や関係者が実際に動けるかどうかです。
自衛消防訓練は、消防署に言われたから行う形式的な行事ではなく、建物の利用者、従業員、テナント、来訪者の命を守るための実践的な防火管理業務です。
消防計画の内容、自衛消防組織の編成、訓練回数、訓練内容、記録の保存状況に不安がある場合は、早めに見直しを行い、管轄消防署や消防法令に詳しい専門家に確認することをおすすめします。
関連記事
参考法令・資料
- 消防法施行規則第3条第10項
- 消防法施行規則第51条の8第3項
- 東京都火災予防条例第50条の3第4項
- 東京都火災予防条例施行規則
- 東京消防庁「自衛消防訓練」
- 東京消防庁「自衛消防訓練実施結果記録書」
- 東京消防庁「防火管理ポータルサイト」