統括防火管理者とは|選任が必要な建物・協議会・全体についての消防計画を条文で解説

統括防火管理者とは|選任が必要な建物・協議会・全体についての消防計画を条文で解説

統括防火管理者の選任義務は消防法第8条の2第1項と施行令第3条の3で決まります。「協議会」は法定の制度ではなく、届出期限は「遅滞なく」。選任が必要な建物の判定表、全体についての消防計画の記載7事項、罰則の実際までを行政書士が条文で解説します。

この記事の結論

  • 統括防火管理者の選任義務は、消防法第8条の2第1項と消防法施行令第3条の3で決まります。令第3条の2ではありません(令第3条の2は「防火管理者の責務」の条文です)。
  • 前提となる要件は「管理について権原が分かれていること」です。1棟を1者が単独で使用・管理している建物には、統括防火管理者は必要ありません。
  • 消防法令に「協議会」という制度はありません。条文が求めているのは、全管理権原者が「協議して定める」こと(法第8条の2第1項)です。協議会・規約・議事録は、その協議を証明し運営を安定させるための実務上の手段です。
  • 選任・解任の届出期限は「遅滞なく」(法第8条の2第4項)。「14日以内」という期限は消防法令に存在しません。
  • 統括防火管理者が作成するのは「全体についての消防計画」です(令第4条の2第1項、規則第4条)。「統括消防計画」は正式名称ではありません。各テナントの消防計画は、この全体についての消防計画に適合しなければなりません(法第8条の2第3項)。
  • 統括防火管理者に関する義務違反には直接の罰則(直罰)がありません。ただし選任命令・適正執行命令に従わない場合は第5条の2第1項の使用禁止・停止・制限命令の対象となり、その命令違反は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(第39条の2の2)、法人には1億円以下の罰金(第45条第1号)です。
  • 報酬を得て業として消防署への提出書類を作成できるのは、申請者本人を除けば行政書士または行政書士法人に限られます(行政書士法第19条第1項)。

テナントビル、雑居ビル、店舗併設マンション。一つの建物を複数の事業者が使っているとき、各テナントがそれぞれ防火管理者を置いているだけでは足りません。廊下も階段も避難口も建物で一つしかないからです。


そこで消防法は、建物全体の防火管理を束ねる統括防火管理者を、すべての管理権原者が協議して定めることを義務づけています。


本記事では、東京消防庁管内での実務を前提に、選任が必要な建物の判定基準・統括防火管理者になれる人の要件・協議と協議会の位置づけ・全体についての消防計画・届出書類と期限・罰則の実際までを、消防法、消防法施行令、消防法施行規則、東京都火災予防条例の条文に沿って整理します。


統括防火管理者とは|定義と根拠条文

統括防火管理者とは、管理について権原が分かれている防火対象物において、全管理権原者が協議して定め、その建物の全体についての防火管理上必要な業務を統括する者をいいます。根拠は消防法第8条の2第1項です。


条文は、高層建築物その他政令で定める防火対象物で管理権原が分かれているものについて、その管理権原者に対し、政令で定める資格を有する者のうちから統括防火管理者を協議して定め、次の業務を行わせることを義務づけています。

  • 当該防火対象物の全体についての消防計画の作成
  • その消防計画に基づく消火、通報及び避難の訓練の実施
  • 廊下、階段、避難口その他の避難上必要な施設の管理
  • その他、建物全体についての防火管理上必要な業務

防火管理者との違い

防火管理者と統括防火管理者は、担当する範囲と選任する主体が異なります。両者は併存するものであり、統括防火管理者を選任したからといって各テナントの防火管理者が不要になるわけではありません。

比較項目 防火管理者 統括防火管理者
根拠 消防法第8条第1項 消防法第8条の2第1項
選任する者 管理権原者が単独で選任 全管理権原者が協議して選任
担当範囲 自らの権原に属する部分(自社テナント内など) 建物全体(共用部分を含む)
作成する計画 防火管理に係る消防計画 全体についての消防計画
計画の上下関係 全体についての消防計画に適合しなければならない(法第8条の2第3項) 各テナント計画の上位に位置づけられる
届出義務者 管理権原者(法第8条第2項) 管理権原者(法第8条の2第4項)

防火管理者そのものの選任要件については 防火管理者の選任が必要な建物とは|収容人員10人・30人・50人の判定基準 で詳しく解説しています。


「管理権原」とは何か(「管理権限」ではありません)

管理権原とは、防火対象物の管理について正当な権原(法律上の根拠)を有することをいい、実務上は「その部分について維持管理の最終決定ができ、そのための費用を負担する立場」を指します。ビルオーナー、区分所有者、賃借人(テナント事業者)などがこれに当たります。


条文の用語は「権原」であり、「権限」ではありません。一文字違いですが、届出書の記載で誤ると差し戻しの原因になります。


💡 ポイント:数えるのは「テナントの数」ではなく「管理権原者の数」です。
同一の法人が複数フロアを借りていれば管理権原者は1者です。逆に、1棟をオーナーが単独で所有し1社が全館を借り切っていても、賃貸借契約の内容によって管理権原が所有者と賃借人に分かれていると評価される場合があります。判断に迷う場合は、契約書の修繕・変更に関する条項を確認したうえで、管轄消防署に事前確認してください。一棟貸しの整理は 【建物一棟貸しの場合】防火管理者や統括防火管理者は必要?所有者の責任は? をご覧ください。


統括防火管理者の選任が必要な建物【判定表】

選任義務が生じるのは、次の2つの条件を「どちらも」満たす場合です。片方だけでは義務は生じません。


条件1:管理について権原が分かれていること

これがすべての号に共通する大前提です(法第8条の2第1項)。管理権原者が1者しかいない建物は、規模や用途にかかわらず統括防火管理者の対象外です。


条件2:用途・階数・収容人員が基準に該当すること

高層建築物と地下街は消防法本体に、その他は消防法施行令第3条の3に定められています。階数はいずれも「地階を除く階数」で数えます。

区分 用途(令別表第一) 階数(地階を除く) 収容人員 根拠
高層建築物 用途を問わない(高さ31mを超える建築物) 要件なし 要件なし 法第8条の2第1項
避難困難施設を含むもの (6)項ロ、(16)項イ((6)項ロの用途部分があるものに限る) 3以上 10人以上 令第3条の3第1号
特定用途 (1)項~(4)項、(5)項イ、(6)項イ・ハ・ニ、(9)項イ、(16)項イ((6)項ロの用途部分がないもの) 3以上 30人以上 令第3条の3第2号
非特定の複合用途 (16)項ロ 5以上 50人以上 令第3条の3第3号
準地下街 (16の3)項 要件なし 要件なし 令第3条の3第4号
地下街 (16の2)項のうち消防長または消防署長が指定するもの 要件なし 要件なし 法第8条の2第1項

⚠ 見落としが多い2つの号
第1号(収容人員10人以上)と第4号(準地下街)は、解説記事から抜け落ちていることが少なくありません。特に第1号は、認知症高齢者グループホームや障害者支援施設などの(6)項ロが3階建てビルの一部に入っている場合、収容人員10人で対象になる点に注意が必要です。


用途区分の限定列挙に注意

第2号は「特定防火対象物なら何でも」ではなく、(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項イ・ハ・ニ、(9)項イ、(16)項イの限定列挙です。逆に第3号の(16)項ロ以外の非特定用途、たとえば(15)項の事務所ビル単独は、何階建てであっても令第3条の3には該当しません(高さ31m超の高層建築物として対象になる場合を除きます)。


用途の判定方法そのものは 消防法の用途判定とは?令別表第一の項の決め方・従属用途・みなし従属を解説、収容人員の算定方法は 収容人員の計算方法|消防法施行規則第1条の3の用途別算定表 をご覧ください。


実際の建物での判定例

建物の状況 判定 理由
地上3階建て。1階飲食店、2~3階事務所。テナントごとに賃貸借。収容人員45人 必要 (16)項イ、階数3以上、収容人員30人以上(令第3条の3第2号)
地上4階建て。1階店舗、2~4階賃貸住宅。収容人員35人 必要 (16)項イ、階数3以上、収容人員30人以上(同第2号)
地上6階建て。全館が事務所と倉庫。テナント5社。収容人員80人 必要 (16)項ロ、階数5以上、収容人員50人以上(同第3号)
地上5階建て。全館が事務所のみ。高さ22m。テナント3社。収容人員60人 不要 (15)項単独は令第3条の3に規定がなく、31m以下なので高層建築物にも当たらない
地上12階建て分譲マンション。高さ35m。区分所有 必要 高さ31m超の高層建築物で管理権原が分かれている(法第8条の2第1項)
地上3階建て分譲マンション。高さ10m。区分所有 不要 (5)項ロ単独は令第3条の3に規定がなく、高層建築物にも当たらない
地上8階建て。1棟すべてを1社が使用し、管理権原者が1者 不要 管理権原が分かれていないため大前提を欠く
地上3階建て。2階に認知症高齢者グループホーム、他は物販店舗。収容人員15人 必要 (6)項ロの用途部分がある(16)項イ、階数3以上、収容人員10人以上(同第1号)

「うちのビルは対象なのか」だけでも、お気軽にご確認ください。
建物の階数・高さ・各階の用途・テナントの契約形態がわかる資料(登記事項証明書、平面図、賃貸借契約書など)をご覧いただければ、統括防火管理者の要否と、必要な場合の届出一式を整理してご説明します。初回のご相談は無料です。
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統括防火管理者になれる人|資格と3つの追加要件

統括防火管理者の資格は消防法施行令第4条に、さらに満たすべき要件が消防法施行規則第3条の3に定められています。「防火管理講習を修了していればよい」というだけでは足りない点が、この制度の特徴です。


前提となる資格(令第4条)

原則として甲種防火管理者の資格(令第3条第1項第1号に定める者)が必要です。ただし、建物の規模が小さい一定の場合には乙種防火管理者の資格でも足ります(同条第2号)。

建物の区分 必要な資格
下記以外のすべて(高層建築物、令第3条の3各号の防火対象物、地下街) 甲種防火管理者の資格を有する者(令第4条第1号)
特定用途系で延べ面積300㎡未満のもの、非特定用途系で延べ面積500㎡未満のものなど(令第4条第2号イ~ホ) 乙種防火管理者の資格を有する者でも可

さらに満たすべき3つの要件(規則第3条の3)

令第4条は、資格に加えて「全体についての防火管理上必要な業務を適切に遂行するために必要な権限及び知識を有するものとして総務省令で定める要件を満たすもの」であることを求めています。その要件が規則第3条の3の次の3つです。

  1. 権限の付与:各管理権原者から、全体についての防火管理上必要な業務を適切に遂行するために必要な権限が付与されていること。
  2. 業務内容の説明と知識:各管理権原者から、全体についての防火管理上必要な業務の内容について説明を受けており、かつ、その内容について十分な知識を有していること。
  3. 建物の状況の説明と知識:各管理権原者から、当該防火対象物の位置、構造及び設備の状況その他必要な事項について説明を受けており、かつ、その事項について十分な知識を有していること。

💡 ポイント:この3要件が、協議・協議会が実務上不可欠になる理由です。
「必要な権限が付与されていること」を書面で示せなければ、要件を満たしていることを説明できません。だからこそ、権限の範囲を明記した規約や協議事項の書面が求められるのです。統括防火管理者を外部の専門家に委嘱する場合も同様で、権限付与と情報提供が形式的に済まされていると、実質的に要件を欠く状態になります。


「協議会」は法定ではない|協議の位置づけを整理する

ここが誤解の多いところです。結論から述べます。


消防法、消防法施行令、消防法施行規則、東京都火災予防条例のいずれにも「統括防火管理協議会」という制度の規定はありません。「協議会設立届」という法定の届出書も存在しません。
法令が求めているのは、全管理権原者が統括防火管理者を「協議して定める」こと(消防法第8条の2第1項)です。


それでも協議の「証拠」は求められる

協議会の設置自体は任意ですが、協議を行った事実を書面で示すことは実務上必須です。東京消防庁は、統括防火・防災管理者選任(解任)届出書の提出にあたり、次の書類を求めています。

書類 位置づけ 内容
統括防火・防災管理者選任(解任)届出書 法定様式(規則別記様式第1号の2の2の2の2) 法第8条の2第4項に基づく届出
協議を実施したことを証する書面 任意様式 協議会規約、議事要旨、覚書、契約書など。全管理権原者の合意が確認できるもの
管理権原者一覧 添付書類 建物内の管理権原者と権原の範囲を一覧化したもの
資格を証する書面 規則第4条の2第2項で必要 防火管理講習修了証等の写しと、規則第3条の3の要件に関する書類

協議会を組成するメリット

法定ではないにもかかわらず、多くのビルで協議会(防火・防災管理協議会などの名称)が設けられているのは、次のような実務上の利点があるためです。

  • 権限付与の根拠が文書で残る:規則第3条の3第1号の要件を満たしていることを説明しやすくなります。
  • テナント入替時の再協議が容易になる:規約に構成員の変更手続きを定めておけば、入替のたびにゼロから合意形成をする必要がなくなります。
  • 費用負担のルールが明確になる:共用部の設備点検、全体訓練の実施費用などの分担を事前に決めておけます。
  • 立入検査での説明が容易になる:協議の経緯と役割分担が文書化されていれば、消防署からの確認に即答できます。

💡 規約に入れておくべき最低限の項目
名称・目的/構成員(管理権原者と権原の範囲)/統括防火管理者の選任方法と付与する権限の範囲/協議事項/会議の招集と議決方法/全体についての消防計画の承認手続き/構成員の変更(テナント入替)時の取扱い/費用の負担/規約の改廃


全体についての消防計画|記載7事項と各テナント計画との関係

統括防火管理者が作成する計画の正式名称は「全体についての消防計画」です。根拠は消防法施行令第4条の2第1項および消防法施行規則第4条です。「統括消防計画」という呼び方は通称であり、届出書の名称としては用いません。


作成と届出の手順

規則第4条第1項は、統括防火管理者が全体についての消防計画を作成し、当該防火対象物の管理について権原を有する者の確認を受けて、別記様式第1号の2の2の2の届出書により所轄消防長または消防署長へ届け出るものと定めています。変更するときも同様です。


定めなければならない7つの事項(規則第4条第1項)

号 定めるべき事項
第1号 管理権原者の権原の範囲に関すること
第2号 全体についての防火管理業務の一部を外部に委託している場合の、受託者の氏名・住所、受託業務の範囲及び方法に関すること
第3号 全体についての消防計画に基づく消火・通報・避難の訓練その他の訓練の定期的な実施に関すること
第4号 廊下、階段、避難口、安全区画、防煙区画その他の避難施設の維持管理及びその案内に関すること
第5号 火災、地震その他の災害が発生した場合における消火活動、通報連絡及び避難誘導に関すること
第6号 火災の際の消防隊に対する情報提供及び消防隊の誘導に関すること
第7号 その他、全体についての防火管理に関し必要な事項

なお、大規模地震対策特別措置法の強化地域、南海トラフ地震・日本海溝千島海溝周辺海溝型地震の推進地域に所在する一定の施設については、規則第4条第2項以下により地震防災に関する事項の追加が必要になります。


各テナントの消防計画との関係

消防法第8条の2第3項は、各管理権原者が定めた防火管理者が作成する消防計画は、統括防火管理者が作成する全体についての消防計画に適合するものでなければならないと定めています。上下関係が条文で明示されている点が重要です。


したがって実務では、全体についての消防計画を先に固め、それに合わせて各テナントの消防計画を整えるのが正しい順序になります。テナントが独自に作った計画が、建物全体の避難経路の設定や自衛消防隊の編成と食い違っていれば、是正の対象です。消防計画そのものの作り方は 消防計画の作成手順と記載事項|届出義務者・様式第1号の2・訓練回数を条文で解説 をご覧ください。


統括防火管理者の指示権(法第8条の2第2項)

統括防火管理者は、全体についての防火管理業務を行うにあたり必要があると認めるときは、各管理権原者が定めた防火管理者に対し、業務の実施のために必要な措置を講ずることを指示することができます。


また、統括防火管理者は必要に応じて管理権原者の指示を求め、誠実にその職務を遂行しなければなりません(令第4条の2第3項)。指示権を持つ一方で、独断で動く立場ではないという構造です。


届出書類と提出期限【一覧表】

統括防火管理体制を整えるときに提出する書類は、次のとおりです。いずれも「遅滞なく」または「作成・変更したとき」であり、「◯日以内」という日数の定めはありません。

届出書 様式 届出義務者 時期 根拠
統括防火管理者選任(解任)届出書 規則別記様式第1号の2の2の2の2 管理権原者(連名) 遅滞なく 法第8条の2第4項、規則第4条の2第1項
(上記の添付)資格を証する書面 — — 選任届と同時 規則第4条の2第2項
全体についての消防計画作成(変更)届出書 規則別記様式第1号の2の2の2 統括防火管理者(管理権原者の確認を受けて) 作成・変更したとき 令第4条の2第1項、規則第4条第1項
防火管理者選任(解任)届出書 規則別記様式第1号の2 各管理権原者 遅滞なく 法第8条第2項
消防計画作成(変更)届出書 規則別記様式第1号の2 各防火管理者 作成・変更したとき 法第8条第1項、規則第3条第1項

⚠ 「選任後14日以内」は誤りです。
消防法第8条の2第4項の文言は「遅滞なく」です。統括防火管理者の選任届について「14日以内」と定めた規定は、消防法にも施行令にも施行規則にも東京都火災予防条例にも存在しません。ただし「遅滞なく」は「いつでもよい」という意味ではなく、正当な理由なく遅らせてはならないという意味です。実務上は、協議が整い次第すみやかに提出してください。


東京消防庁管内で必要になる届出全体の見取り図は 消防届出は行政書士へ|東京消防庁管内の届出一覧・期限・依頼できる範囲を徹底解説 にまとめています。


罰則と行政処分|「直罰はないが使用停止命令の対象」

統括防火管理に関する罰則は、防火管理者のそれとは構造が異なります。ここを正確に理解しておくことが、リスクを見誤らないために重要です。


統括防火管理には直罰規定がない

消防法第44条第8号は、届出を怠った者に30万円以下の罰金または拘留を科す規定ですが、そこに列挙されているのは第8条第2項(防火管理者の選任・解任届)などであり、第8条の2第4項(統括防火管理者の選任・解任届)は含まれていません。


同様に、第8条の2第5項の選任命令、第6項の適正執行命令に違反した場合の直接の罰則規定もありません。


実際のリスクは「使用停止命令」の側にある

直罰がないからといって軽い義務ではありません。命令違反は消防法第5条の2第1項の使用の禁止・停止・制限命令の対象となり、この命令に違反した場合の罰則は消防法で最も重い部類に属します。

違反の内容 根拠 罰則
統括防火管理者の選任・解任の届出を怠った 法第8条の2第4項 直罰なし(是正指導の対象)
統括防火管理者の選任命令に従わなかった 法第8条の2第5項 直罰なし/第5条の2第1項の使用停止命令等の対象
統括防火管理業務の適正執行命令に従わなかった 法第8条の2第6項 直罰なし/第5条の2第1項の使用停止命令等の対象
使用禁止・停止・制限命令に従わなかった 法第5条の2第1項 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(第39条の2の2、情状により併科)。法人には1億円以下の罰金(第45条第1号)
(比較)防火管理者の選任・解任の届出を怠った 法第8条第2項 30万円以下の罰金または拘留(第44条第8号)
(比較)防火管理業務の適正執行命令に従わなかった 法第8条第4項 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(第41条第1項第2号)

💡 「拘禁刑」について
令和7年6月1日施行の刑法等の一部改正により、「懲役」と「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました。改正前の解説記事に「懲役」と書かれている場合は、現行法では拘禁刑と読み替えてください。


違反対象物の公表制度

東京消防庁をはじめ多くの消防本部では、重大な消防法令違反のある防火対象物について、建物名称・所在地・違反内容をウェブサイト等で公表する制度を運用しています。統括防火管理体制の不備が直ちに公表対象になるわけではありませんが、立入検査で複合的な違反が指摘された場合、テナント誘致や賃料に直接影響します。立入検査への備えは 消防署の立入検査と行政書士の役割|事業者が知っておきたい実務ポイント をご覧ください。


統括防災管理者との関係|大規模建物では兼務が義務

一定規模以上の建物では、火災以外の災害(地震、毒性物質の発散等)に備える防災管理制度(消防法第36条)が併せて適用されます。


このとき重要なのが消防法第36条第3項です。統括防災管理者を定めなければならない建物が統括防火管理の対象でもある場合、管理権原者は統括防災管理者に、統括防火管理者が行うべき業務も行わせなければなりません。つまり統括防火管理者と統括防災管理者は同一人となります。


届出書も「統括防火・防災管理者選任(解任)届出書」として一体の様式が用いられます。防災管理の対象範囲については 防災管理が必要な建物とは|対象規模・防災管理者・届出・罰則を条文で解説 をご覧ください。


東京固有の上乗せ|防火管理技能者(条例第55条の3の2)

東京消防庁管内では、大規模な建物について東京都火災予防条例第55条の3の2により、防火管理者・統括防火管理者の業務を補助する防火管理技能者を置くことが義務づけられています。全国一律の制度ではなく、東京都独自の上乗せ規制です。

号 対象(令別表第一) 規模
第1号 (1)項~(4)項、(5)項イ、(6)項、(9)項イ、(16)項イ 地階を除く階数11以上かつ延べ面積1万㎡以上、または階数5以上かつ延べ面積2万㎡以上
第2号 (16の2)項(地下街) 延べ面積1万㎡以上
第3号 (5)項ロ、(7)項、(8)項、(9)項ロ、(10)項~(15)項、(16)項 階数15以上かつ延べ面積3万㎡以上、または階数11以上・延べ面積1万㎡以上で防災センターを設けるもの
第4号 上記以外 延べ面積5万㎡以上

防火管理技能者は、登録講習機関が実施する防火管理技能講習を修了した者から定め、防火管理業務計画を作成させます(同条第2項)。選任したときは遅滞なく消防署長へ届け出なければなりません(同条第3項)。


⚠ 「東京都火災予防条例第43条」は統括防火管理の根拠ではありません。
東京都火災予防条例の第42条及び第43条は「削除」されており、現在は条文が存在しません。統括防火管理に関連する東京都の条文は、第55条の3(防火管理者の上乗せ選任義務)と第55条の3の2(防火管理技能者)です。条例の条番号は枝番が多く、二次情報のまま引用すると誤りが生じやすい箇所です。


よくある誤解と、条文に基づく正しい理解

統括防火管理は解説記事の間で記述の食い違いが大きい分野です。実務で見かける誤りを、条文と対照して整理します。

よくある記述 正しい理解
選任基準の根拠は消防法施行令第3条の2 令第3条の3です。令第3条の2は「防火管理者の責務」の条文で、統括防火管理者とは無関係です
根拠として東京都火災予防条例第43条 同条例第42条及び第43条は削除済みです。関連条文は第55条の3、第55条の3の2
選任届は選任後14日以内 遅滞なく(法第8条の2第4項)。日数の定めはありません
協議会設立届を消防署に提出する そのような法定の届出はありません。求められるのは協議を実施したことを証する書面(任意様式)です
統括防火管理者が作るのは統括消防計画 正式名称は全体についての消防計画(令第4条の2第1項、規則第4条)です
管理権限が分かれている場合 条文の用語は管理権原です
特定防火対象物なら3階建て30人以上ですべて対象 令第3条の3第2号は限定列挙です。また(6)項ロを含むものは第1号の10人基準になります
区分所有マンションは常に統括防火管理者が必要 (5)項ロ単独の共同住宅は令第3条の3に該当せず、高さ31m超の高層建築物に当たる場合に対象となります
届出を怠ると30万円以下の罰金 それは防火管理者の選任届(法第8条第2項、第44条第8号)の罰則です。統括防火管理者の届出義務違反に直罰はありません

全国でも3割が未選任という実態

総務省消防庁『令和6年版 消防白書』によれば、令和6年3月31日現在、統括防火管理者を選任しなければならない防火対象物は全国に9万1,099件あり、そのうち統括防火管理者が選任され消防機関に届け出られているのは6万2,887件(69.0%)にとどまります。全体についての消防計画を作成し届け出ているものは6万514件(66.4%)です。


つまり、対象となる建物の約3割が未選任のまま運用されている計算になります。管理権原者が複数いるがゆえに「誰かがやっているだろう」という状態が生まれやすいのが、この制度の構造的な弱点です。


行政書士に依頼できる範囲と費用

なぜ行政書士なのか

消防署は行政機関であり、消防署長あてに提出する届出書は行政書士法第1条の3にいう「官公署に提出する書類」に当たります。そして同法第19条第1項は、行政書士または行政書士法人でない者が、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業としてこれらの書類を作成することを禁じています。


したがって、統括防火管理者選任届出書や全体についての消防計画を報酬を得て作成できるのは、申請者本人(管理権原者・その従業員)か、行政書士・行政書士法人に限られます。管理会社やビル管理業者に「一式でお任せ」とした場合、その中に書類作成が含まれていれば同項に抵触します。詳しくは 消防法令に基づく各種手続における行政書士法違反の防止について をご覧ください。


💡 令和8年1月1日施行の改正行政書士法
行政書士法の一部を改正する法律(令和7年法律第65号)により、第19条第1項に「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」の文言が明示され、法人に対する両罰規定(第23条の3、100万円以下の罰金)が新設されました。総務省の通知は、この改正を「現行法の解釈を条文に明示する」ものと説明しています。改正が新たに違法行為を作ったのではなく、従来から違法であったことが条文上はっきりしたという整理です。


当事務所がお引き受けする業務

  • 要否の判定:階数・高さ・用途・収容人員・管理権原の分かれ方から、統括防火管理者の選任義務の有無を判定します。
  • 管理権原者の整理:登記事項証明書と賃貸借契約書から管理権原者一覧を作成します。
  • 協議の設計と書面化:協議会規約、協議事項の覚書、議事要旨の作成を支援します。中立の立場で各管理権原者間の調整を行います。
  • 統括防火管理者選任(解任)届出書の作成・提出:資格を証する書面、規則第3条の3の要件に関する書類を含めて整えます。
  • 全体についての消防計画の作成:規則第4条第1項の7事項を満たす計画を、建物の実態に合わせて作成します。
  • 各テナントの消防計画との整合確認:法第8条の2第3項の適合性を点検します。
  • 消防署との事前協議・同席:管轄消防署の予防課との調整に同席します。

報酬額について

統括防火(防災)管理者選任届出書、全体についての消防計画作成(変更)届出書、防火・防災管理者選任(解任)届出書、消防計画作成(変更)届出書などの報酬額は、報酬額表に業務ごとに掲載しています(すべて税抜)。


💰 料金は 報酬額表 をご覧ください。
金額に幅があるのは、管理権原者の数、協議の調整に要する回数、図面作成の要否によって作業量が変わるためです。協議会規約の作成支援など報酬額表に掲げていない業務については、個別にお見積りいたします。正式なお見積りは、建物の情報を確認させていただいたうえでご提示します。
初回のご相談は無料です。継続的な体制維持が必要なビルには 顧問契約 もご用意しています。


管理権原者間の調整から、届出一式まで。

「誰が音頭を取るのか決まらない」——統括防火管理でいちばん多いご相談です。
統括防火管理は、法令知識だけでは前に進みません。オーナー、管理会社、各テナントという立場の異なる当事者の間で合意をつくる作業が必要になります。当事務所は、中立の第三者として協議の設計から書面化、消防署への届出までを一貫してお引き受けします。
建物の階数・高さ・各階の用途・テナントの一覧をお知らせいただければ、選任義務の有無と必要書類、想定スケジュールをご提示します。
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行政書士萩本昌史事務所|東京の消防手続支援ステーション


よくある質問

Q1. 統括防火管理者はどのような建物に必要ですか?

管理について権原が分かれていることを前提に、①高さ31mを超える高層建築物、②(6)項ロまたは(6)項ロを含む(16)項イで地階を除く階数3以上かつ収容人員10人以上、③(1)項~(4)項・(5)項イ・(6)項イハニ・(9)項イ・(16)項イで階数3以上かつ収容人員30人以上、④(16)項ロで階数5以上かつ収容人員50人以上、⑤準地下街、⑥消防長または消防署長が指定する地下街、のいずれかに該当する建物に必要です(消防法第8条の2第1項、消防法施行令第3条の3)。

Q2. 統括防火管理者には誰がなれますか。外部の人でもよいですか。

原則として甲種防火管理者の資格を有する者から選任します(消防法施行令第4条第1号。一定規模未満の建物は乙種でも可)。加えて消防法施行規則第3条の3により、各管理権原者から①必要な権限が付与されていること、②業務内容の説明を受け十分な知識を有すること、③建物の位置・構造・設備の状況について説明を受け十分な知識を有すること、の3要件を満たす必要があります。外部の者を選任すること自体は禁じられていませんが、この3要件、特に権限の付与を書面で明確にしておく必要があります。

Q3. 統括防火管理協議会は必ず設置しなければならないのですか。

いいえ。消防法令に「協議会」という制度の規定はなく、設置は法律上の義務ではありません。条文が求めているのは全管理権原者が「協議して定める」ことです(消防法第8条の2第1項)。ただし東京消防庁では選任届出にあたり協議を実施したことを証する書面(規約、議事要旨、覚書等の任意様式)の添付を求めており、協議会と規約を整えておくことが実務上もっとも確実な方法になります。

Q4. 統括防火管理者の選任届はいつまでに提出しますか。

消防法第8条の2第4項により「遅滞なく」所轄の消防長または消防署長に届け出ます。「14日以内」といった日数の定めは消防法、消防法施行令、消防法施行規則、東京都火災予防条例のいずれにもありません。ただし「遅滞なく」は正当な理由なく遅らせてはならないという意味であり、協議が整い次第すみやかに提出してください。様式は消防法施行規則別記様式第1号の2の2の2の2で、資格を証する書面の添付が必要です(規則第4条の2第2項)。

Q5. 全体についての消防計画と、各テナントの消防計画はどう違いますか。

全体についての消防計画は統括防火管理者が建物全体について作成するもので、管理権原の範囲、全体訓練の実施、避難施設の維持管理、消防隊への情報提供など7つの事項を定めます(消防法施行規則第4条第1項)。各テナントの消防計画は各防火管理者が自らの権原の範囲について作成するものです。消防法第8条の2第3項により、各テナントの消防計画は全体についての消防計画に適合しなければなりません。

Q6. 統括防火管理者を選任しないと罰則はありますか。

統括防火管理者の選任・解任の届出義務違反(消防法第8条の2第4項)および選任命令・適正執行命令違反(同条第5項・第6項)について、直接の罰則規定はありません。ただし命令に従わない場合は消防法第5条の2第1項の使用の禁止・停止・制限命令の対象となり、その命令に違反すると3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(第39条の2の2)、法人には1億円以下の罰金(第45条第1号)が科されます。「届出を怠ると30万円以下の罰金」は防火管理者の選任届(第8条第2項、第44条第8号)の罰則であり、統括防火管理者のものではありません。

Q7. 分譲マンションでも統括防火管理者は必要ですか。

共同住宅のみの建物(令別表第一(5)項ロ)は消防法施行令第3条の3のいずれの号にも該当しません。したがって、高さが31mを超える高層建築物に当たる場合(おおむね11階建て以上)に、区分所有等により管理権原が分かれていることを前提として選任義務が生じます。1階に店舗が入る複合用途((16)項イ)であれば、地階を除く階数3以上かつ収容人員30人以上で対象となります。

Q8. 1棟をまるごと1社が借りている場合はどうなりますか。

管理について権原が分かれていないため、統括防火管理者の選任義務は生じません。この場合は消防法第8条第1項に基づき防火管理者を1名選任すれば足ります。ただし、賃貸借契約の内容によっては建物の構造・設備の維持管理権原が所有者に残り、管理権原が分かれていると評価される場合があります。契約書の修繕・変更に関する条項を確認したうえで、管轄消防署にご確認ください。

Q9. テナントが入れ替わったら選任届を出し直す必要がありますか。

テナントの入替そのものを理由に統括防火管理者選任届の再提出を義務づける条文はありません。ただし管理権原者が変わることで協議の当事者が変わるため、新たな管理権原者を含めて協議を行い、その結果を協議会規約や協議事項の書面に反映させる必要があります。また、管理権原の範囲は全体についての消防計画の記載事項(規則第4条第1項第1号)であるため、変更があれば全体についての消防計画の変更届が必要です。実際の取扱いは管轄消防署によって運用が異なるため、事前に確認することをおすすめします。

Q10. 統括防災管理者とは別に統括防火管理者を選任するのですか。

いいえ。統括防災管理者を定めなければならない建物が統括防火管理の対象でもある場合、管理権原者は統括防災管理者に統括防火管理者が行うべき業務も行わせなければならないと定められています(消防法第36条第3項)。したがって同一人となり、届出も「統括防火・防災管理者選任(解任)届出書」として一体で行います。

Q11. 統括防火管理者の届出を行政書士に依頼できますか。費用はどのくらいですか。

できます。消防署は官公署であり、そこへ提出する届出書は行政書士法第1条の3にいう「官公署に提出する書類」に当たります。報酬を得て業としてこれを作成できるのは、申請者本人を除けば行政書士または行政書士法人に限られます(同法第19条第1項)。報酬額は業務ごとに 報酬額表 に掲載しています(すべて税抜)。管理権原者の数と協議の調整回数により作業量が変わるため金額に幅があり、協議会規約の作成支援など報酬額表に掲げていない業務は個別にお見積りとなります。正式なお見積りは建物の情報を確認させていただいたうえでご提示します。初回のご相談は無料です。


参照した法令・公的資料

区分 条項 内容
消防法 第8条の2第1項~第7項 統括防火管理者の選任義務、指示権、消防計画の適合、届出、選任命令・適正執行命令
消防法 第5条の2第1項、第39条の2の2、第44条第8号、第45条第1号 使用禁止・停止・制限命令と罰則、届出義務違反の罰則、両罰規定
消防法 第36条第3項 統括防災管理者による統括防火管理業務の実施
消防法施行令 第3条の3、第4条、第4条の2 統括防火管理者を定めなければならない防火対象物、資格、責務
消防法施行規則 第3条の3、第4条、第4条の2 資格要件(3要件)、全体についての消防計画の記載事項と様式、選任届の様式と添付書類
東京都火災予防条例 第55条の3、第55条の3の2 防火管理者の上乗せ選任義務、防火管理技能者
行政書士法 第1条の3、第19条第1項、第21条の2、第23条の3 業務範囲、業務の制限、罰則、両罰規定(令和8年1月1日施行の改正後)


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この記事を書いた人
萩本昌史(はぎもと まさし)/特定行政書士
保有資格:特定行政書士、消防設備士、防火対象物点検資格者、防災管理点検資格者
行政書士萩本昌史事務所(東京の消防手続支援ステーション)
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※本記事は2026年8月23日時点で確認した法令および公的資料に基づく一般的な解説です。法令改正、東京都火災予防条例の改正、管轄消防署の運用、個別の建物の状況により結論が異なる場合があります。具体的な案件については、対象建物を管轄する消防署および行政書士にご確認ください。

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