防火管理者の選任が必要な建物とは|収容人員10人・30人・50人の判定基準

防火管理者の選任が必要な建物とは|収容人員の判定基準・甲種乙種の区分・実務フローを行政書士が解説

防火管理者の選任が必要かどうかは延べ面積ではなく「収容人員」で決まります。(6)項ロを含む建物は10人以上、特定用途は30人以上、非特定用途は50人以上。甲種・乙種の区分、収容人員の算定方法、東京都火災予防条例第55条の3による上乗せ、統括防火管理者、罰則までを条番号つきで特定行政書士が解説します。

この記事の結論

  • 防火管理者の選任が必要かどうかは、延べ面積ではなく「収容人員」で決まります。自力避難困難者が入所する施設(令別表第一(6)項ロ)を含む建物は10人以上、特定用途は30人以上、非特定用途は50人以上です(消防法第8条第1項、消防法施行令第1条の2第3項第1号)。
  • 延べ面積は、甲種防火管理者と乙種防火管理者のどちらが必要かを分ける基準です。特定用途は300㎡、非特定用途は500㎡が境目になります(消防法施行令第3条第1項第2号)。
  • 選任義務を負うのは「テナントごと」ではなく、管理について権原を有する者(管理権原者)ごとです。1棟を1者が単独で管理していれば、防火管理者は1名で足ります。
  • 東京都では、消防法の対象にならない危険物貯蔵所・指定可燃物施設・屋内駐車場・地階に乗降場を有する停車場についても、東京都火災予防条例第55条の3により甲種防火管理者の選任が上乗せされています。
  • 選任・解任の届出を怠った場合は30万円以下の罰金または拘留(消防法第8条第2項、第44条第8号)。選任命令に従わなければ6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、防火管理業務の適正執行命令に従わなければ1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。
  • 報酬を得て業として消防署への提出書類を作成できるのは、行政書士または行政書士法人に限られます(行政書士法第19条第1項)。

防火管理者とは|定義と根拠条文

防火管理者とは、防火対象物の管理権原者から選任され、消防計画を作成し、これに基づく訓練・点検・火気管理などの防火管理業務を実際に遂行する者です。根拠は消防法第8条第1項です。


消防法第8条第1項は、多数の者が出入りし、勤務し、または居住する防火対象物のうち政令で定めるものについて、その管理について権原を有する者に対し、政令で定める資格を有する者のうちから防火管理者を定め、防火管理上必要な業務を行わせることを義務づけています。


防火管理者が行う業務

防火管理者が行うべき業務は、消防法第8条第1項および消防法施行令第3条の2に列挙されています。

業務 根拠
防火管理に係る消防計画の作成と所轄消防長または消防署長への届出 令第3条の2第1項、規則第3条第1項
消防計画に基づく消火・通報・避難の訓練の実施 令第3条の2第2項
消防用設備等、消防用水、消火活動上必要な施設の点検・整備 令第3条の2第2項
火気の使用または取扱いに関する監督 令第3条の2第2項
避難または防火上必要な構造・設備の維持管理 令第3条の2第2項
収容人員の管理 令第3条の2第2項
火元責任者その他の防火管理業務従事者への必要な指示 令第3条の2第4項

義務を負うのは管理権原者、業務を行うのは防火管理者

ここは実務で最も混同されるところです。

管理権原者=防火対象物(または管理権原の及ぶ部分)について正当な管理権を有する者。建物オーナー、テナントの事業者などがこれにあたります。防火管理者を選任する義務と、防火管理業務を行わせる義務を負います(消防法第8条第1項)。
防火管理者=管理権原者から選任され、消防計画の作成をはじめとする防火管理業務を実際に遂行する者。消防計画を届け出るのは防火管理者です(消防法施行規則第3条第1項)。


したがって、防火管理者を選任していない、あるいは選任届を出していないことについて消防署から命令を受けるのは、防火管理者本人ではなく管理権原者です。


「テナントごと」ではなく「管理権原者ごと」

複数のテナントが入居するビルでは、テナントごとに防火管理者が必要と説明されることがありますが、条文上の単位は管理について権原を有する者です。

管理について権原が分かれている防火対象物では、それぞれの管理権原者が、その権原の及ぶ範囲について防火管理者を定めます。1棟を1者が単独で使用し管理権原者が1人であれば、建物全体で防火管理者は1名で足ります。


また、同一敷地内に同一の管理権原者が管理する防火対象物が2以上あるときは、それらは1の防火対象物とみなして収容人員を判定します(消防法施行令第2条)。


防火管理者の選任が必要な防火対象物【消防法第8条】

選任が必要な防火対象物は、消防法施行令第1条の2第3項に定められています。判定に使うのは収容人員であり、延べ面積ではありません。


防火管理者の選任が必要な防火対象物の判定基準


区分 対象となる用途 選任基準 根拠
① 自力避難困難者が入所する施設を含むもの 令別表第一(6)項ロ(特別養護老人ホーム、認知症高齢者グループホーム、障害児入所施設、救護施設など)。(16)項イ・(16の2)項については、(6)項ロの用途に供される部分が存するものに限る 防火対象物全体の収容人員が10人以上 令第1条の2第3項第1号イ
② 特定用途の防火対象物 令別表第一(1)項〜(4)項、(5)項イ、(6)項イ・ハ・ニ、(9)項イ、(16)項イ、(16の2)項(①に該当するものを除く)。劇場、飲食店、物品販売店舗、ホテル・旅館、病院・診療所、蒸気浴場・熱気浴場、地下街など 防火対象物全体の収容人員が30人以上 令第1条の2第3項第1号ロ
③ 非特定用途の防火対象物 令別表第一(5)項ロ、(7)項、(8)項、(9)項ロ、(10)項〜(15)項、(16)項ロ、(17)項。共同住宅、学校、図書館、工場、倉庫、事務所、神社・寺院、重要文化財など 防火対象物全体の収容人員が50人以上 令第1条の2第3項第1号ハ
④ 新築の工事中の建築物 総務省令で定めるもので、次のいずれかに該当するもの イ 地階を除く階数が11以上かつ延べ面積1万㎡以上 ロ 延べ面積5万㎡以上 ハ 地階の床面積の合計が5,000㎡以上 収容人員が50人以上 令第1条の2第3項第2号
⑤ 建造中の旅客船 船舶安全法第8条に規定する旅客船で、総務省令で定めるもの 収容人員が50人以上かつ甲板数が11以上 令第1条の2第3項第3号

④の要件にご注意ください。新築の工事中の建築物について「収容人員50人以上かつ地階を除く階数11以上」とだけ説明している資料がありますが、これは令第1条の2第3項第2号イの1パターンにすぎません。同号ロ(延べ面積5万㎡以上)とハ(地階の床面積の合計5,000㎡以上)も対象で、いずれか1つに該当すれば選任が必要です。


① 自力避難困難者が入所する施設は10人以上

令別表第一(6)項ロは、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、認知症高齢者グループホーム、障害者支援施設、障害児入所施設、救護施設など、火災時に自力で避難することが著しく困難な者が入所する施設です。
この用途を含む建物は、建物全体の収容人員が10人以上で防火管理者の選任が必要になります。(16)項イの複合用途ビルや(16の2)項の地下街についても、(6)項ロの用途に供される部分が存在すれば10人以上の基準が適用されます。


② 特定用途は30人以上

不特定多数の者が出入りする特定用途の防火対象物は、収容人員30人以上で選任が必要です。飲食店(3項ロ)、物品販売店舗(4項)、ホテル・旅館(5項イ)、病院・診療所(6項イ)、幼稚園・特別支援学校(6項ニ)、蒸気浴場・熱気浴場(9項イ)などが該当します。


③ 非特定用途は50人以上

主として特定の者が利用する非特定用途の防火対象物は、収容人員50人以上で選任が必要です。共同住宅(5項ロ)、学校(7項)、図書館・博物館(8項)、その他の公衆浴場(9項ロ)、事務所(15項)などが該当します。


消防法第8条の対象から除かれる防火対象物

令第1条の2第3項第1号は、令別表第一に掲げる防火対象物のうち(16の3)項(準地下街)および(18)項から(20)項までを除外しています。(18)項はアーケード、(19)項は山林、(20)項は舟車です。これらは消防法第8条による防火管理者の選任義務の対象になりません。


なお、用途の判定そのものについては 消防法における建物の用途判定とは?消防法施行令 別表第1に基づく建物の用途について解説用途判定のポイント:主たる用途・従属的用途・複合用途防火対象物の考え方 をあわせてご覧ください。


東京都火災予防条例第55条の3による上乗せ【⑥〜⑨】

東京消防庁管内では、消防法第8条の対象にならない施設についても、東京都火災予防条例第55条の3により防火管理者の選任が義務づけられています。

次に掲げる防火対象物で令第1条の2第3項に定めるもの以外のもの(管理について権原が分かれているものにあつては、当該部分)の管理について権原を有する者は、法第8条第1項並びに令第2条、第3条(第1項第2号及び第3項を除く。)及び第3条の2の規定の例により、令第3条第1項第1号イからニまでのいずれかに該当する者のうちから防火管理者を定め、必要な業務を行わせなければならない。(東京都火災予防条例第55条の3)


区分 対象 選任基準
⑥ 危険物施設 同一敷地内の屋外タンク貯蔵所または屋内貯蔵所 貯蔵する危険物の数量の合計が指定数量の1,000倍以上
⑦ 指定可燃物 指定可燃物を貯蔵し、または取り扱う防火対象物 床面積の合計が1,500㎡以上
⑧ 屋内駐車場 屋内駐車場 50台以上の車両を収容するもの
⑨ 車両の停車場 令別表第一(10)項に掲げる車両の停車場 地階に乗降場を有するもの

⑥〜⑨はいずれも条例第55条の3が「令第3条第1項第1号イからニまでのいずれかに該当する者」と定めているため、甲種防火管理者の資格が必要です。乙種では選任できません。
また、条例は自治体ごとに内容が異なります。東京消防庁管外の物件については、所在地の火災予防条例をご確認ください。


甲種・乙種の判定基準

防火管理者の資格には甲種と乙種があります。甲種はすべての防火対象物で選任できますが、乙種は小規模な防火対象物に限られます。判定は「建物全体の区分」と「テナント単位の区分」の2段階です。


建物全体の区分(甲種防火対象物・乙種防火対象物)

消防法施行令第3条第1項第2号は、令第1条の2第3項第1号ロ・ハの防火対象物のうち、延べ面積が特定用途で300㎡未満、その他で500㎡未満のものを乙種防火対象物と定めています。これに当たらないものが甲種防火対象物です。

区分 該当する防火対象物 必要な資格
甲種防火対象物 ・(6)項ロを含む防火対象物(収容人員10人以上) ※面積を問わない
・特定用途で収容人員30人以上かつ延べ面積300㎡以上
・非特定用途で収容人員50人以上かつ延べ面積500㎡以上
・新築の工事中の建築物、建造中の旅客船
・東京都火災予防条例第55条の3の⑥〜⑨
甲種防火管理者
乙種防火対象物 ・(6)項ロを含まない特定用途で収容人員30人以上かつ延べ面積300㎡未満
・非特定用途で収容人員50人以上かつ延べ面積500㎡未満
甲種または乙種防火管理者

テナント単位で乙種が使える場合

甲種防火対象物であっても、管理権原が分かれている場合、その権原に属する部分が一定の規模未満であれば、乙種防火管理講習の修了者を防火管理者とすることができます。根拠は消防法施行令第3条第3項と消防法施行規則第2条の2の2です。

テナントの用途 乙種で選任できる条件(当該部分を1の防火対象物とみなして算定した収容人員)
(6)項ロの用途の部分 収容人員が10人未満
特定用途((6)項ロ以外)の部分 収容人員が30人未満
非特定用途の部分 収容人員が50人未満

実務上の判断 甲種防火管理者はすべての防火対象物で選任できます。将来の増床・用途変更や、他の物件での選任も考えると、迷った場合は甲種を取得しておくのが確実です。


講習の時間と資格取得のルート

講習時間は消防法施行規則第2条の3に定められています。東京消防庁では、甲種新規講習を2日間、乙種講習を1日間の日程で実施しています。

講習 法令上の講習時間 東京消防庁の実施日程
甲種防火管理新規講習 おおむね10時間(規則第2条の3第2項) 2日間
乙種防火管理講習 おおむね5時間(規則第2条の3第4項) 1日間
甲種防火管理再講習 おおむね2時間(規則第2条の3第3項) 半日

なお、講習の修了以外にも、学識経験による資格取得のルートがあります。消防法施行令第3条第1項第1号ロ〜ニは、防災に関する学科・課程を修めて大学等を卒業し1年以上の防火管理実務経験を有する者、市町村の消防職員で管理的・監督的な職に1年以上あった者、規則第2条に列挙された者(安全管理者、防火対象物点検資格者、甲種危険物取扱者である危険物保安監督者、一級建築士で1年以上の防火管理実務経験を有する者など)を掲げています。詳しくは 防火管理者の資格要件 をご覧ください。


甲種防火管理再講習が必要になる場合

再講習が必要なのは、収容人員300人以上の特定用途防火対象物(消防法施行令第4条の2の2第1項第1号の防火対象物)の甲種防火管理者です。すべての甲種防火管理者に再講習義務があるわけではありません。

選任時の状況 再講習の期限
選任された日の4年前までに講習を修了している場合 選任された日から1年以内
上記以外の場合 講習修了日以後最初の4月1日から5年以内

収容人員の算定方法

収容人員とは、防火対象物に出入りし、勤務し、または居住する者の数をいい(消防法施行令第1条の2第3項第1号イ括弧書き)、その算定方法は消防法施行規則第1条の3の表に用途ごとに定められています。


収容人員は実際の利用者数ではありません。法令に定められた算定方法で計算した数値です。実際の来客が少なくても、算定結果が基準を超えれば防火管理者の選任義務が生じます。


主な用途別の算定方法

用途 算定方法(規則第1条の3第1項) 計算例
(1)項 劇場・映画館・公会堂等 従業者の数+客席部分(固定式いす席はいす席数。長いす式は正面幅÷0.4m。立見席は床面積÷0.2㎡。その他は床面積÷0.5㎡)
(2)項・(3)項 遊技場以外(飲食店・キャバレー等) 従業者の数+客席部分(固定式いす席はいす席数。長いす式は正面幅÷0.5m。その他は床面積÷3㎡) 従業者5人+固定いす20席+和室12㎡÷3㎡=5+20+4=29人
(2)項・(3)項のうち遊技場 従業者の数+遊技機械器具を使用して遊技を行うことができる者の数+観覧・飲食・休憩用の固定式いす席の数(長いす式は正面幅÷0.5m)
(4)項 物品販売店舗・百貨店 従業者の数+主として従業者以外の者の使用に供する部分(飲食・休憩部分は床面積÷3㎡、その他は床面積÷4㎡) 従業者10人+売場400㎡÷4㎡=10+100=110人
(5)項イ ホテル・旅館 従業者の数+宿泊室(洋式はベッド数、和式は床面積÷6㎡。簡易宿所・主として団体客を宿泊させるものは÷3㎡)+集会・飲食・休憩部分
(5)項ロ 共同住宅・寄宿舎 居住者の数
(6)項イ 病院・診療所 医師・歯科医師・助産師・薬剤師・看護師その他の従業者の数+病室内にある病床の数+待合室の床面積の合計÷3㎡
(6)項ロ・ハ 福祉施設等 従業者の数+要保護者(老人・乳児・幼児・身体障害者・知的障害者等)の数
(6)項ニ 幼稚園・特別支援学校 教職員の数+幼児・児童・生徒の数
(7)項 学校 教職員の数+児童・生徒・学生の数
(10)項・(12)項〜(14)項 停車場・工場・スタジオ・倉庫 従業者の数
(15)項 事務所その他 従業者の数+主として従業者以外の者の使用に供する部分の床面積÷3㎡ 従業者30人+会議室60㎡÷3㎡=30+20=50人
(17)項 重要文化財等 床面積÷5㎡

用途別のより詳しい算定は 防火対象物の収容人員の計算方法を用途区分別に徹底解説 をご覧ください。


複合用途防火対象物・地下街の算定

令別表第一(16)項および(16の2)項の防火対象物は、同表各項の用途と同一の用途に供されている部分をそれぞれ1の防火対象物とみなして算定し、その結果を合算します(規則第1条の3第2項)。
たとえば1階が飲食店、2階〜4階が事務所の複合用途ビルであれば、飲食店部分を(3)項の方法で、事務所部分を(15)項の方法で算定し、合計した数がビル全体の収容人員になります。


床面積を規定の数値で除して得た数について、条文で「1未満のはしたの数は切り捨てる」と明記されているのは長いす式のいす席の算定です。床面積による除算についても、実務上は1未満を切り捨てて運用されています。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。


延べ面積は「選任の要否」ではなく「甲種・乙種の区分」の基準

延べ面積とは、建物の各階の床面積の合計です(例:1階100㎡+2階150㎡=延べ面積250㎡)。
延べ面積によって防火管理者の選任義務の有無が決まるわけではありません。選任の要否は収容人員で判断し、延べ面積は甲種・乙種のどちらの資格が必要かを分ける基準として使われます。延べ面積が小さくても、収容人員が基準を超えれば選任義務が生じます。


統括防火管理者が必要になる場合

管理について権原が分かれている防火対象物のうち一定のものは、建物全体の防火管理を統括する統括防火管理者を、すべての管理権原者が協議して定めなければなりません(消防法第8条の2第1項)。

対象(いずれも管理権原が分かれているもの) 根拠
高層建築物(高さ31メートルを超える建築物) 法第8条の2第1項
(6)項ロおよび(16)項イ((6)項ロの用途部分が存するものに限る)で、地階を除く階数が3以上かつ収容人員10人以上 令第3条の3第1号
(1)項〜(4)項、(5)項イ、(6)項イ・ハ・ニ、(9)項イ、(16)項イで、地階を除く階数が3以上かつ収容人員30人以上 令第3条の3第2号
(16)項ロ(非特定用途の複合用途防火対象物)で、地階を除く階数が5以上かつ収容人員50人以上 令第3条の3第3号
(16の3)項(準地下街 令第3条の3第4号
地下街のうち消防長または消防署長が指定するもの 法第8条の2第1項

統括防火管理者は、建物全体についての消防計画の作成、これに基づく消火・通報・避難の訓練の実施、廊下・階段・避難口その他の避難上必要な施設の管理を行います。選任したときは、遅滞なく所轄消防長または消防署長に届け出ます(法第8条の2第4項)。


各テナントの防火管理者が作成する消防計画は、統括防火管理者が作成する建物全体についての消防計画に適合するものでなければなりません(消防法第8条の2第3項)。テナント側だけで完結する話ではない点にご注意ください。


1棟を1者が単独で使用し管理権原者が1人であれば、統括防火管理者は不要です。詳しくは 複合用途防火対象物・あなたのビルの「統括防火管理者」は必要?法令根拠と役割を開設統括防火管理者と協議会の設置|複合建物における防火管理の要点を行政書士が徹底解説【建物一棟貸しの場合】防火管理者や統括防火管理者は必要?所有者の責任は? をご覧ください。


防火管理者選任の実務フロー


  • STEP

    用途・収容人員・管理権原者の確認

    令別表第一のどの項に当たるかを判定し、規則第1条の3の方法で収容人員を算定します。あわせて延べ面積(甲種・乙種の判定に使用)と、管理権原者が誰かを確定します。管理権原が分かれている場合は、権原の範囲を賃貸借契約書等で確認します。



  • STEP

    防火管理者の選任

    防火管理上必要な業務を適切に遂行できる管理的または監督的な地位にある者から選びます(令第3条第1項柱書)。単に資格を持っているだけでは足りず、地位の要件を満たす必要があります。資格がなければ、甲種または乙種の防火管理講習を受講します。



  • STEP

    防火・防災管理者選任(解任)届出書の提出

    所轄消防署(東京消防庁管内は各消防署の予防課)に提出します。提出時期は選任後遅滞なくです(消防法第8条第2項)。解任したときも同様に届け出ます。届出義務を負うのは管理権原者です。



  • STEP

    消防計画作成(変更)届出書の提出

    防火管理者が消防計画を作成し、別記様式第1号の2により所轄消防長または消防署長に届け出ます(規則第3条第1項)。選任届と同時に提出するのが一般的です。記載事項は規則第3条第1項各号に列挙されています。



  • STEP

    訓練・点検の実施

    特定用途(令別表第一(1)項〜(4)項、(5)項イ、(6)項、(9)項イ、(16)項イ、(16の2)項)の防火管理者は、消火訓練と避難訓練をそれぞれ年2回以上実施しなければなりません(規則第3条第10項)。実施する場合は、あらかじめ消防機関に通報する必要があります(同条第11項)。非特定用途については法令上の回数の定めはなく、消防計画に定めた回数で実施します。



  • STEP

    変更が生じたときの届出・再講習

    防火管理者が交代したときは、選任(解任)届出書と消防計画作成(変更)届出書の両方を提出します。収容人員300人以上の特定用途防火対象物の甲種防火管理者は、期限内に再講習を受講します。



人事異動で防火管理者が不在になった場合の対処は 人事異動で防火管理者が不在になった場合の対処方法・手続きについて、社外から選任する場合の考え方は 防火管理者の選任は内部から?外部から? をご覧ください。


選任・届出を怠った場合の罰則

「届出義務違反」と「命令違反」では適用条文も刑の重さも異なります。ここを混同した説明が多いため、条文ごとに整理します。

違反の内容 根拠となる義務 罰則 法人への両罰
防火管理者の選任(解任)の届出を怠った 消防法第8条第2項 30万円以下の罰金または拘留(第44条第8号) なし
防火管理者選任命令に従わなかった 消防法第8条第3項 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(第42条第1項第1号) あり(第45条第3号)
防火管理業務の適正執行命令に従わなかった 消防法第8条第4項 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(第41条第1項第2号) あり(第45条第3号)
統括防火管理者の選任命令・適正執行命令に従わなかった 消防法第8条の2第5項・第6項 直接の罰則規定なし。第5条の2第1項による使用禁止・停止・制限命令の対象
消防計画作成(変更)届出書を提出しなかった 消防法施行規則第3条第1項 直罰なし。放置すれば第8条第4項の命令の対象となり、命令違反は第41条第1項第2号

刑名について 令和7年6月1日施行の刑法等の一部を改正する法律により、「懲役」と「禁錮」は拘禁刑に一本化されました。現行の消防法の条文は拘禁刑と規定しています。「1年以下の懲役」と書かれた解説は改正前の表記です。


命令に従わなかった場合、消防法第5条第3項・第4項が準用され、命令の内容は標識の掲示等により公示されます(消防法第8条第5項)。罰則以上に、事業への影響が大きい点にご注意ください。


消防署に出す書類を作成できるのは誰か

防火・防災管理者選任(解任)届出書も消防計画作成(変更)届出書も、消防署という官公署に提出する書類です。

(業務の制限)
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。(後略)


報酬を得て、業として、これらの届出書を作成できるのは行政書士または行政書士法人に限られます。違反した場合は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(行政書士法第21条の2)、法人にも100万円以下の罰金が科されます(同法第23条の3)。


令和7年法律第65号による改正(令和8年1月1日施行)で「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」と条文に明示されました。総務省の通知は、この改正について「『手数料』や『コンサルタント料』等どのような名目であっても、対価を受領して、業として、官公署に提出する書類等を作成することは違法であるという現行法の解釈を条文に明示する」ものと説明しています。改正によって新たに違法になったのではなく、従来から違法だったという位置づけです。


また、令和7年2月25日付で総務省消防庁予防課長等から「消防法令に基づく各種手続における行政書士法違反の防止について」(消防予第75号ほか)が発出されています。詳しくは 消防署への提出書類作成と行政書士法違反の防止について をご覧ください。


よくある質問

防火管理者の選任が必要かどうかは、延べ面積で決まりますか?

いいえ。選任の要否は収容人員で決まります(消防法施行令第1条の2第3項第1号)。(6)項ロを含む建物は10人以上、特定用途は30人以上、非特定用途は50人以上です。延べ面積は、甲種防火管理者と乙種防火管理者のどちらが必要かを分ける基準(特定用途300㎡、非特定用途500㎡)として使われます。


テナントごとに防火管理者は必要ですか?

条文上の単位は「テナント」ではなく管理について権原を有する者です。管理権原がテナントごとに分かれていれば、それぞれの管理権原者が自らの権原の範囲について防火管理者を選任し、届け出る義務を負います。1棟を1者が単独で使用している場合は、建物全体で1名で足ります。


収容人員は実際に利用する人数ですか?

いいえ。消防法施行規則第1条の3の表に定める用途別の方法で算定した数値です。飲食店であれば従業者数といす席数・床面積から算定するため、実際に空席があっても算定結果は変わりません。


複合用途ビルの収容人員はどう数えますか?

令別表第一(16)項・(16の2)項の防火対象物は、同じ用途に供されている部分をそれぞれ1の防火対象物とみなして算定し、合算します(規則第1条の3第2項)。1階の飲食店は(3)項の方法、2階以上の事務所は(15)項の方法で算定し、その合計がビル全体の収容人員になります。


甲種と乙種のどちらを取ればよいですか?

甲種防火管理者はすべての防火対象物で選任できます。乙種で選任できるのは、乙種防火対象物と、甲種防火対象物のうち管理権原が分かれている一定規模未満の部分((6)項ロは10人未満、特定用途は30人未満、非特定用途は50人未満)に限られます。将来の増床や用途変更を考えると、甲種の取得をおすすめします。


防火管理者の届出をしないとどうなりますか?

選任(解任)の届出を怠ると、30万円以下の罰金または拘留です(消防法第8条第2項、第44条第8号)。さらに防火管理者が選任されていないと認められる場合は選任命令が出され、これに従わないと6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(第8条第3項、第42条第1項第1号)。防火管理業務が法令や消防計画に従って行われていない場合の適正執行命令に違反すると、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です(第8条第4項、第41条第1項第2号)。命令違反については法人にも罰金刑が科されます(第45条第3号)。


避難訓練は年に何回必要ですか?

特定用途(令別表第一(1)項〜(4)項、(5)項イ、(6)項、(9)項イ、(16)項イ、(16の2)項)の防火管理者は、消火訓練と避難訓練をそれぞれ年2回以上実施しなければなりません(消防法施行規則第3条第10項)。実施にあたっては、あらかじめ消防機関に通報する必要があります(同条第11項)。非特定用途については法令上の回数の定めがなく、消防計画に定めた回数で実施します。


防火管理者は誰でもなれますか?

いいえ。資格を有していることに加えて、防火管理上必要な業務を適切に遂行できる管理的または監督的な地位にあることが必要です(消防法施行令第3条第1項柱書)。ただし共同住宅など、規則第2条の2第1項に掲げる防火対象物で、管理的・監督的な地位にある者がいずれも遠隔の地に勤務している等の事情があると消防長または消防署長が認めるものについては、権限の付与・業務内容の文書交付・建物の状況の説明という要件を満たすことで選任できる特例があります(令第3条第2項、規則第2条の2第2項)。


統括防火管理者はいつ必要になりますか?

管理権原が分かれていることが前提です。そのうえで、高さ31メートルを超える高層建築物、(6)項ロを含み地階を除く階数3以上・収容人員10人以上のもの、特定用途で地階を除く階数3以上・収容人員30人以上のもの、(16)項ロで地階を除く階数5以上・収容人員50人以上のもの、準地下街、消防長等が指定する地下街が対象です(消防法第8条の2第1項、消防法施行令第3条の3)。


東京都以外でも同じ基準ですか?

消防法および消防法施行令・施行規則による①〜⑤の基準は全国共通です。一方、⑥〜⑨は東京都火災予防条例第55条の3による上乗せで、火災予防条例の内容は自治体ごとに異なります。東京消防庁管外の物件については、所在地の火災予防条例をご確認ください。


まとめ

  • 選任の要否は収容人員で判断する。(6)項ロを含む建物は10人以上、特定用途は30人以上、非特定用途は50人以上。
  • 延べ面積は甲種・乙種の区分の基準。特定用途300㎡、非特定用途500㎡が境目。
  • 単位は「テナント」ではなく管理権原者。権原が分かれていれば、それぞれが選任・届出の義務を負う。
  • 東京都では条例第55条の3による上乗せがあり、⑥〜⑨はいずれも甲種が必要。
  • 選任・解任の届出を怠れば30万円以下の罰金または拘留。命令違反はさらに重く、法人にも罰金刑が科される。
  • 報酬を得て届出書を作成できるのは行政書士または行政書士法人のみ。

参照した法令・公的資料

  • 消防法(昭和23年法律第186号)第8条、第8条の2、第41条第1項第2号、第42条第1項第1号、第44条第8号、第45条第3号
  • 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第1条の2第3項・第4項、第2条、第3条、第3条の2、第3条の3、第4条の2の2第1項第1号
  • 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第1条の3、第2条、第2条の2、第2条の2の2、第2条の3、第3条(第1項・第10項・第11項)
  • 東京都火災予防条例(昭和37年条例第65号)第55条の3
  • 行政書士法(昭和26年法律第4号)第1条の3、第1条の4、第19条第1項、第21条の2、第23条の3(令和7年法律第65号による改正後。令和8年1月1日施行)
  • 刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号。令和7年6月1日施行)による「拘禁刑」への一本化
  • 総務省消防庁予防課長ほか「消防法令に基づく各種手続における行政書士法違反の防止について」(令和7年2月25日 消防予第75号、消防危第30号、消防特第35号)
  • 東京消防庁「防火管理者が必要な防火対象物と資格」

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この記事を書いた人
萩本昌史(はぎもと まさし)/特定行政書士
保有資格:特定行政書士、消防設備士、防火対象物点検資格者、防災管理点検資格者
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