私たちの社会において、火災予防は、人々の安全と財産を守るための最も基本的な責務の一つです。特に、不特定多数の人が利用する施設や、災害時に大きな被害が予想される施設においては、より一層厳格な防火管理が求められます。
今回は、その厳格な管理が義務付けられる「特定防火対象物」について、そして、その適用を判断するための最初の扉である「用途判定」がいかに重要であるかを行政書士の視点から深掘りしていきます。あなたの施設が火災から安全に守られているか、ぜひこの記事で確認してみてください。
消防法における「防火対象物」とは、火災の発生や延焼のおそれがある山林、建築物、船舶その他の工作物の総称を指します。その中でも、特に火災時の危険性が高く、不特定多数の人の生命や身体に重大な影響を及ぼす可能性のある施設が「特定防火対象物」として指定されています。
政令で定める特定防火対象物は、「消防法施行令(政令)」第6条の規定により「別表第一」に掲げられる防火対象物とされています。具体的には、以下のような用途に供される施設が該当します。
これらの「特定用途」に供される防火対象物は、火災発生時に多くの人命に関わる甚大な被害につながる可能性があるため、通常の防火対象物よりも厳しい防火管理基準が適用されるのです。
さらに、以下のような大規模な建築物や施設も、特定防火対象物に準ずる防火管理が求められる場合があります。
また、消防法第8条第1項の規定の適用においては、同一敷地内に管理権原を有する者が同一である別表第一に掲げる防火対象物が2以上ある場合、それらは1つの防火対象物とみなされます。これは、複数の建物が一体的に管理されている場合に、一括して防火管理を行うことを意図しています。
「私の施設は特定防火対象物なのだろうか?」
この疑問を解決するための最初のステップが「用途判定」です。
用途判定とは、その防火対象物が「どのような用途に供されているか」を正確に判断することです。この「用途」によって、その建物が特定防火対象物に該当するかどうかが決まり、その後の防火管理義務の範囲が大きく変わってきます。
用途判定の根拠となる「収容人員」の算定は、消防法令(消防法施行規則第1条の3)で用途ごとに定められています。例えば、以下のように用途によって算定方法が異なります。
2以上の用途が入った建物の場合、それぞれの用途で収容人員を算定し、それを合算します。
もし用途判定を誤り、特定防火対象物であるにもかかわらず、その義務を怠っていた場合、消防法違反となり、罰則が科せられるだけでなく、万一の火災時には計り知れない人的・物的被害を引き起こすことになりかねません。例えば、消防法第8条第3項の規定による命令に違反した者は、6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処せられることがあります。
正確な用途判定は、単なる行政手続きではなく、火災から命と財産を守るための防火管理の「出発点」なのです。
用途判定の結果、あなたの施設が特定防火対象物に該当した場合、以下のような厳格な防火管理義務が発生します。
消防法により、防火管理者は「防火管理上必要な業務を適切に遂行することができる管理的又は監督的な地位にあるもの」でなければなりません。
その資格は、都道府県知事、消防本部及び消防署を置く市町村の消防長または総務大臣の登録を受けた法人が行う甲種防火対象物の防火管理に関する講習(甲種防火管理講習)の課程を修了した者などが該当します。甲種防火管理者の資格は2日間の講習で、乙種防火管理者の資格は1日の講習で取得できます。
防火管理業務は原則として防火管理者が自ら行うものですが、例外的に委託することも可能です。ただし、委託する防火管理者が特定の要件(管理権原者からの権限付与、業務内容の明示文書の交付、十分な知識を有すること、防火管理業務を補佐する者の指定など)をすべて満たし、かつ管理的または監督的な地位にある者が業務を適切に遂行できない特定の事由(管外勤務、身体的理由、日本語の不自由さ、従業員が少ないなど)がある場合に限られます。最終的な防火管理の責任は、管理権原者が負います。
消防計画に基づき、自衛消防訓練を定期的に実施する必要があります。特に特定用途の防火対象物では、消火訓練と避難訓練を年2回以上実施し、事前に消防署への通知が義務付けられています。
次の防火対象物では、建物全体の一体的な防火管理を推進するために「統括防火管理者」を選任しなければなりません。
統括防火管理者は、各管理権原者と協議して、建物「全体についての消防計画」を作成し、これを消防長または消防署長に届け出ます。また、この計画に基づいて建物全体の訓練実施、避難上必要な施設の管理などを行います。統括防火管理者は、各テナント等の防火・防災管理者に対して、権限の範囲内で必要な措置を指示する権限を持ちます。
特定防火対象物の関係者は、火災の初期段階での消火、安全な避難、その他消防活動に必要な設備(消防用設備等)を、政令で定める技術基準に従って設置し、維持する義務があります。
消火器、水バケツ、水槽、乾燥砂、膨張ひる石、膨張真珠岩などの簡易消火用具。屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備、不活性ガス消火設備、ハロゲン化物消火設備、粉末消火設備、屋外消火栓設備、動力消防ポンプ設備など。
* 特定の場所(例えば、別表第一に掲げる防火対象物の発電機室、変圧器室などで床面積200㎡以上の部分)には、不活性ガス消火設備、ハロゲン化物消火設備、または粉末消火設備が必要となる場合があります。
火災の発生を報知する設備で、自動火災報知設備、ガス漏れ火災警報設備、漏電火災警報器、消防機関へ通報する火災報知設備、警鐘、携帯用拡声器、手動式サイレン、非常ベル、自動式サイレン、放送設備などがあります。
一部の防火対象物には、非常ベルと放送設備、または自動式サイレンと放送設備を設置する義務があります(例:別表第一(16の2)項及び(16の3)項に掲げる防火対象物、地階を除く階数が11以上の防火対象物など)。
火災発生時に避難するために用いる設備で、すべり台、避難はしご、救助袋、緩降機、避難橋その他の避難器具、誘導灯、誘導標識などがあります。
防火水槽またはこれに代わる貯水池その他の用水。
排煙設備、連結散水設備、連結送水管、非常コンセント設備、無線通信補助設備など。
設置された消防用設備等は、消防設備士などの有資格者による定期的な点検が義務付けられており、その結果を消防長または消防署長に報告しなければなりません。この点検は火災等の未然防止のための自主検査・点検の一部であり、不備事項はその場で改修し、管理権原者に報告する必要があります。
一定の要件を満たし、消防長または消防署長から「優良な防火対象物」として認定された施設には、その旨の表示を付すことができます。認定を受けた場合、定期点検報告の義務が免除される特例があります。認定は3年で効力を失い、申請者の変更があった場合も失効します。
特定防火対象物では、火災予防や避難のために、様々な標識や表示の設置が義務付けられています。
劇場、百貨店、地下街など、火災予防上危険な場所では、喫煙や裸火の使用、危険物品の持ち込みを禁止する旨の標識を掲示しなければなりません。これらの標識のシンボルは、日本産業規格Z8210に適合するものである必要があります。
指定数量未満の危険物や指定可燃物(綿花類、木毛、紙くずなど)を貯蔵・取り扱う場所には、その旨を示す標識や掲示板の設置が義務付けられています。掲示板には、少量危険物の類、品名、最大数量、指定可燃物の品名、最大数量、禁水、火気注意、火気厳禁、火気厳禁及び整理整頓などの情報が記載されます。
旅館やホテルなどでは、宿泊室に屋外への避難経路を明示した図を掲出する必要があります。
劇場など、多数の者が利用する施設では、出入口に見やすい定員表示板を設け、満員時には「満員」の札を掲げることで、収容人員の適正な管理を促します。
劇場、百貨店、旅館などで使用されるカーテンや展示用合板などの「防炎対象物品」は、政令で定める防炎性能を有し、その性能を示す表示が義務付けられています。
消防用設備や消火薬剤など、消防活動に供する機械器具は、型式適合検定に合格したものにはその旨の表示を付すことが義務付けられています。型式適合検定外の自主表示対象機械器具等も、総務省令で定める技術上の規格に適合する場合には表示を付すことができます。
* これらの表示義務に違反した場合、総務大臣は当該表示の除去命令や消印命令を出すことができ、従わない場合には罰則が適用される可能性もあります。
防火管理は、専門的な知識と継続的な対応が求められる分野です。特に、特定防火対象物の用途判定は、その後の法的義務の全てを決定する重要な判断であり、少しでも曖昧な点があれば、専門家への相談が不可欠です。
私のような行政書士は、消防法や関連条例に精通しており、以下のようにお手伝いできます。
火災は予測不能な災害ですが、適切な防火管理を行うことで、そのリスクを最小限に抑えることができます。安全で安心して事業を継続するためにも、ぜひ一度、防火管理の専門家にご相談ください。
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