消防署提出書類の作成代行は行政書士法違反|2026年10月の逮捕報道と消防設備業者が作れる書類の境界

消防法令に基づく各種手続における行政書士法違反の防止について――改正で問われる「独占業務」の境界

2026年10月、行政書士の資格なく官公署提出書類を作成した容疑で逮捕者が出ました。消防署に出す届出書・報告書も同じ行政書士法第19条の対象です。消防設備士・点検資格者が作れる書類と作れない書類、罰則・両罰規定・建設業許可への影響を条文で解説します。

この記事の結論

  • 2026年10月8日、行政書士の資格なく官公署に提出する許可申請書類を作成した疑いで、静岡県警清水署が53歳の男を逮捕しました(テレビ静岡・静岡朝日テレビ報道)。無資格の書類作成は刑事事件になる違法行為です。
  • 消防署も「官公署」です。消防署に出す届出書・報告書を、他人の依頼を受け報酬を得て業として作成できるのは、行政書士・行政書士法人だけです(行政書士法第1条の3、第19条第1項)。
  • 令和8年1月1日施行の改正で「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」が明記されました。点検料・工事代金に含めた「無料の届出代行」も対象です。
  • 消防設備士・点検資格者が作れるのは、自分が行った点検・工事の記録と、甲種消防設備士本人の着工届だけです。点検結果報告書の鑑、設置届、消防計画、選任届は関係者側の書類です。
  • 違反は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(第21条の2)。令和8年以後の行為は会社にも100万円以下の罰金(第23条の3)。拘禁刑なら建設業許可は必要的取消しです。
  • 報道の事件は改正前(2024年11月ごろ)の行為です。改正法附則第2条により改正前の罰則が適用されるため、「改正前だから大丈夫」は通用しません。

「点検のついでに、お客様の消防署への届出書類も作ってあげている」「工事代金に届出の手間賃を含めている」。消防設備業、ビル管理、内装工事の現場で長く続いてきたこの慣行は、行政書士法違反です。


2026年10月には、行政書士の資格がないまま官公署に提出する許可申請書類を作成していた男が、行政書士法違反の疑いで逮捕されたと報道されました。提出先は国土交通省でしたが、消防署に提出する書類にも同じ条文が適用されます。総務省消防庁は令和7年2月25日に、消防法令に基づく手続でも行政書士でない者が関係者に代わって提出書類を作成することは行政書士法違反に該当する可能性があるとして、全国の消防機関に注意喚起を求める通知を出しています。


本記事では、消防法と行政書士法の両方を扱う行政書士の立場から、逮捕報道の事実関係、消防署提出書類のうち誰が作成してよい書類なのかの線引き、違反したときの罰則と事業への影響を、条文に沿って整理します。消防設備業者・点検業者・ビル管理会社・内装業者の方が、自社のどの業務を見直すべきかが分かるように構成しています。


2026年10月、無資格で官公署提出書類を作成した容疑で逮捕者

2026年10月8日、静岡県警清水署は、行政書士の資格がないのに法人の依頼を受けて国土交通省に提出する許可申請書類を作成したとして、静岡県沼津市の53歳の男を行政書士法違反の疑いで逮捕しました。報道された事実は次のとおりです。


項目 報道された内容
逮捕日・警察署 2026年10月8日/静岡県警清水警察署
被疑者 静岡県沼津市に住む自称会社員の男(53歳)
容疑 2024年11月ごろ、行政書士・行政書士法人の資格がないのに、静岡市清水区の法人から依頼を受け、国土交通省に提出する特殊車両の通行許可に関する申請書類を作成した疑い
発覚の経緯 2026年3月、取引先などから「資格を持っていないようだ」との情報が警察に寄せられ、捜査が始まった
警察の見方 少なくとも1年以上、無資格で行政書士の業務を請け負っていたとみて、余罪も調べる方針。認否は明らかにされていない

出典:テレビ静岡(2026年10月8日)、静岡朝日テレビ(2026年10月8日)。被疑者は逮捕された段階であり、有罪が確定したものではありません。


この事件から消防関係の事業者が読み取るべき3つのこと

① 提出先が国の機関でも消防署でも、適用される条文は同じ
行政書士法第1条の3がいう「官公署」には、国の行政機関だけでなく、消防本部・消防署を含む地方公共団体の機関も含まれます。今回の書類は国土交通省あてでしたが、消防署に出す防火管理者選任届、消防計画作成(変更)届出書、消防用設備等設置届出書、点検結果報告書を無資格者が報酬を得て業として作成すれば、同じ第19条第1項違反です。


② 改正法の施行前の行為でも逮捕されている
容疑の時期は2024年11月ごろで、令和8年1月1日の改正法施行より前です。改正法附則第2条は「この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による」と定めています。つまり改正前の行政書士法のもとでも、無資格者による報酬目的の書類作成はすでに処罰の対象でした。今回の改正は新しい禁止を作ったのではなく、従来から違法だったことを条文で明確にしたものです。


③ 発覚のきっかけは取引先からの情報
報道によれば、端緒は警察に寄せられた情報でした。書類作成を依頼した顧客、取引先、同業者は、作成者に資格があるかどうかを見ています。消防庁の通知を受けて、消防機関の申請窓口でも張り紙の掲示や口頭での注意喚起が行われています。「これまで何も言われなかった」ことは、今後も問題にならない理由にはなりません。


原則:消防署に提出する書類の作成は行政書士の独占業務

行政書士の独占業務とは、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務・事実証明に関する書類を業として作成することです。行政書士または行政書士法人でない者は、他の法律に別段の定めがある場合などを除き、これを行うことができません(行政書士法第1条の3、第19条第1項)。


行政書士法第19条第1項に当たる4つの要件

改正後の第19条第1項は「行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない」と定めています。消防の実務に当てはめると次のとおりです。


要件 消防の実務での意味
他人の依頼を受け 建物の所有者・管理権原者・テナントなど、届出義務を負う関係者から頼まれて作成すること。自社が届出義務者である書類を自社で作るのは対象外
いかなる名目によるかを問わず報酬を得て 「書類作成料」と書いていなくても、点検料・工事代金・管理委託料・コンサルタント料・会費などに書類作成の対価が含まれていれば報酬に当たる
業として 反復継続して行う意思をもって行うこと。サービスとして案内していれば、1件目から該当し得る
官公署に提出する書類 消防署・消防本部に提出する届出書・報告書・申請書。電子申請用の電磁的記録も含む(第1条の3)

令和7年改正(令和8年1月1日施行)で変わったこと

行政書士法の一部を改正する法律(令和7年法律第65号)は、令和7年6月13日に公布され、令和8年1月1日に施行されました。総務省は改正の趣旨を、どのような名目であっても対価を受領して業として官公署提出書類を作成することは違法であるという現行法の解釈を条文に明示するものと説明しています。


項目 改正前 改正後(現行)
業務の規定 第1条の2 第1条の3
提出手続の代理 第1条の3 第1条の4第1項第1号
業務の制限(第19条第1項) 「業として第一条の二に規定する業務を行うことができない」 「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない」
法人の処罰 規定なし(行為者のみ) 両罰規定(第23条の3)。法人または人(個人事業主)にも罰金刑

消防庁は令和7年2月に全国の消防機関へ注意喚起を要請

総務省消防庁は令和7年2月25日、予防課長・危険物保安室長・特殊災害室長の連名で「消防法令に基づく各種手続における行政書士法違反の防止について(通知)」(消防予第75号・消防危第30号・消防特第35号)を発出しました。火災予防・危険物保安・石油コンビナート等の保安の各分野の手続について、行政書士等でない者が防火対象物の関係者等に代わって提出書類を作成することは行政書士法違反に該当する可能性があるとし、申請窓口での注意喚起の張り紙の掲示や口頭での注意喚起を求めています。


行政書士の独占業務に当たる主な消防署提出書類

次の書類は、いずれも届出・報告・申請の義務を負うのが建物の関係者側の書類です。関係者本人(社内の防火管理者を含む)が作成するか、行政書士に依頼する必要があります。


書類 根拠 届出・報告する者 期限
防火(防災)管理者選任(解任)届出書 消防法第8条第2項、規則第3条の2 管理権原者 遅滞なく
消防計画作成(変更)届出書 消防法第8条第1項、規則第3条第1項 防火管理者(管理権原者の指示を受けて作成) 作成・変更のつど
統括防火(防災)管理者選任(解任)届出書 消防法第8条の2第4項、規則第4条の2 管理権原者 遅滞なく
防火対象物工事等計画届出書 東京都火災予防条例第56条 工事等をしようとする者 工事着手日の7日前まで
防火対象物使用開始届出書 東京都火災予防条例第56条の2 使用しようとする者 使用開始日の7日前まで
消防用設備等設置届出書 消防法第17条の3の2、規則第31条の3 関係者 工事完了日から4日以内
消防用設備等点検結果報告書(鑑) 消防法第17条の3の3、規則第31条の6 関係者 特定1年に1回/非特定3年に1回
防火対象物点検結果報告書(鑑) 消防法第8条の2の2、規則第4条の2の4 管理権原者 1年に1回
基準の特例の適用に関する申請(令第32条) 消防法施行令第32条 関係者 工事・使用開始前の事前協議

届出の種類と期限の全体像は「消防届出は行政書士へ|東京消防庁管内の届出一覧・期限・依頼できる範囲」で一覧にしています。


例外:資格者が自ら作れるのは「自分の点検・工事の記録」だけ

消防設備士や点検資格者は、点検や工事を実施する人です。点検結果を消防署に報告する義務を負うのは建物の関係者・管理権原者です。この「実施する人」と「義務を負う人」の区別が、作ってよい書類と作ってはいけない書類の境界になります。


制度 義務を負う者 実施する者
消防用設備等の点検・報告(消防法第17条の3の3) 関係者(所有者・管理者・占有者) 消防設備士・消防設備点検資格者(延べ面積1,000㎡以上の特定防火対象物など。令第36条第2項)
防火対象物点検・報告(消防法第8条の2の2) 管理権原者 防火対象物点検資格者
防災管理点検・報告(消防法第36条第1項) 管理権原者 防災管理点検資格者
消防計画の作成・届出(消防法第8条第1項) 管理権原者(防火管理者に作成させる) 選任された防火管理者
工事整備対象設備等の着工届(消防法第17条の14) 甲種消防設備士本人 甲種消防設備士本人

点検結果報告書:「点検票」は資格者、「鑑」は関係者

消防法第17条の3の3は、「関係者は、……消防設備士免状の交付を受けている者又は総務省令で定める資格を有する者に点検させ、その結果を消防長又は消防署長に報告しなければならない」という構造です。点検を委託しても、報告義務は建物側から移りません。


点検票・点検結果総括表・点検者一覧表は、消防庁告示の様式に点検を行った資格者が自ら結果を記入する、資格者自身の業務の記録です。これを作ることは行政書士法の問題になりません。一方、これらを束ねて消防署に提出する点検結果報告書の鑑は、報告者である関係者名義の官公署提出書類です。点検業者が報酬を得て業として鑑まで作成すれば、行政書士法第19条第1項違反です。防火対象物点検・防災管理点検の報告書も同じ構造です。


関連記事:消防用設備等点検報告制度とは|周期・報告期限・自分でできる範囲/防火対象物点検とは|対象建物・設備点検との違い・特例認定/防災管理が必要な建物とは|対象規模・防災管理者・届出・罰則


設置届・着工届・試験結果報告書:届出本体と技術資料を分ける

消防用設備等の工事では、名前の似た書類が3つ登場し、作成者がそれぞれ違います。


書類 根拠 誰の書類か 工事業者が作成できるか
工事整備対象設備等着工届出書 消防法第17条の14、規則第33条の18(着工の10日前まで) 甲種消防設備士本人 ○ 本人の届出義務に基づく書類
消防用設備等試験結果報告書(設置届の添付書類) 規則第31条の3第1項・第5項 工事を行った者の技術書類 ○ 自ら施工した工事の試験結果を記載する
消防用設備等設置届出書(届出本体) 消防法第17条の3の2、規則第31条の3第1項(工事完了日から4日以内) 関係者 × 関係者の官公署提出書類

設置届は、関係者が届け出て消防長・消防署長の検査を受ける手続です。届出者欄に記載されるのは関係者で、工事を行った業者ではありません。詳しくは「消防用設備等設置届出書の作成代行は行政書士法違反?届出者・4日以内の期限・罰則」で解説しています。


消防計画・選任届:本人の職務か、外部の有償代行か

消防計画は、選任された防火管理者が管理権原者の指示を受けて作成し、所轄消防署長等に届け出るものです(消防法施行規則第3条第1項)。社内の防火管理者が自らの職務として作成・届出するのは、行政書士法の問題になりません。


問題になるのは、外部の事業者(消防設備業者、ビル管理会社、コンサルタントなど)が報酬を得て、建物ごとに消防計画や選任届、消防計画作成(変更)届出書を作り込む場合です。これは官公署提出書類の作成そのもので、点検や工事の資格では代替できません。一般的なひな形を配布するだけなら書類作成には当たりませんが、対象建物に合わせて内容を作り込めば作成代行です。


関連記事:消防計画の作成・届出は行政書士へ|根拠条文・費用・罰則/防火管理者選任届出書の書き方|必要書類・提出先・期限/統括防火管理者とは|選任が必要な建物・協議会・全体についての消防計画


基準の特例の申請(令第32条):法令の当てはめを主張する書類

消防法施行令第32条は、消防長または消防署長が、防火対象物の位置・構造・設備の状況から判断して、基準によらなくても火災の発生・延焼のおそれが著しく少なく、かつ被害を最少限度に止めることができると認めるときは、基準を適用しないと定めています。この特例を求める申請は、なぜ基準によらなくてよいのかを法令の当てはめとして組み立てる書類です。


平面図・計算書などの技術資料は設計者や消防設備士が準備できますが、関係者名義の申請書本体と申請理由の構成は、関係者本人か行政書士が行う業務です。具体例は「民泊開設の消防「基準の特例」完全ガイド」「可動式ブースの消防手続き|特例の要件・工事等計画届・着工届」をご覧ください。


建築士はどこまで代理できるか|内装工事と新築で分けて考える

建築士法第21条は、建築士が「建築物の建築に関する法令又は条例の規定に基づく手続の代理」を行うことができると定めており、この範囲は行政書士法第19条第1項ただし書の「他の法律に別段の定めがある場合」に当たります。ポイントは「建築」の意味です。建築基準法第2条第13号は、建築を「建築物を新築し、増築し、改築し、又は移転すること」と定義しています。


東京都火災予防条例第56条第1項も、指定防火対象物等の「建築」(第1号)と、「修繕、模様替え、間取り又は天井高さの変更その他これらに類する工事」(第2号)を別の号に分けています。テナント入居の内装工事は第2号の工事であって、「建築」ではありません。


手続 テナント入居の内装工事 新築
建築確認申請・完了検査申請(建築基準法第6条第1項・第7条) 通常は発生しない ○ 建築士が代理できる
防火対象物工事等計画届出書(条例第56条) × 「建築」ではないため建築士法第21条の範囲外 建築確認を受けた場合は届出不要(同条ただし書)。確認不要の新築で届け出る場合は「建築」に関する手続として建築士が代理できると考えられる
防火対象物使用開始届出書(条例第56条の2) × 建築士法第21条の範囲外 × 「使用」についての届出で、届出者は使用しようとする者。範囲外と解するのが条文に沿う(解釈が分かれる余地あり)
添付する平面図など(建築士が自ら設計した図面) ○ 設計図書として提供できる ○ 設計図書として提供できる

「×」は、建築士が使用者などの依頼を受け、設計料・監理料に含める場合を含めて報酬を得て、業として届出書を作成する場合です。届出書本体は、使用者本人が作成するか行政書士に依頼してください。消防法第7条の消防同意は、建築主事等が消防長・消防署長に同意を求める手続で、申請者が消防署に別の書類を出すものではありません。


作成可否の早見表

消防設備士・点検資格者・工事業者・管理会社が、他人の依頼を受け報酬を得て業として作成する場合の可否です。


書類 誰の書類か 資格者・業者の作成
消防用設備等の点検票・点検結果総括表・点検者一覧表 点検を行った資格者の記録 ○ 作成できる
防火対象物点検票・防災管理点検票 点検を行った資格者の記録 ○ 作成できる
消防用設備等試験結果報告書 工事を行った者の技術書類 ○ 作成できる
工事整備対象設備等着工届出書 甲種消防設備士本人 ○ 本人が作成・届出
各種点検結果報告書の鑑 関係者・管理権原者 × 作成できない
消防用設備等設置届出書(届出本体) 関係者 × 作成できない
防火(防災)管理者・統括防火(防災)管理者の選任(解任)届出書 管理権原者 × 作成できない
消防計画・全体についての消防計画とその作成(変更)届出書 防火管理者・統括防火管理者(関係者側) × 外部の有償代行は不可
防火対象物工事等計画届出書・使用開始届出書 工事等・使用をしようとする者 × 作成できない
火を使用する設備等の設置届出書 設置しようとする者 × 作成できない
基準の特例の適用に関する申請(令第32条) 関係者 × 作成できない

「×」は、行政書士・行政書士法人でない者が他人の依頼を受け報酬を得て業として作成した場合に行政書士法第19条第1項違反となるものです。関係者本人や社内の防火管理者が自ら作成することは問題ありません。


違反したときの罰則と事業への影響

行政書士法第19条第1項に違反すると、行為者は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。令和8年1月1日以後の行為には、会社にも罰金刑が科されます。


対象 根拠 内容
書類を作成した本人 行政書士法第21条の2 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
会社(法人)・個人事業主 行政書士法第23条の3(両罰規定) 代表者・従業者が業務に関して違反したとき、行為者のほか法人・事業主にも100万円以下の罰金
改正法施行前(令和7年12月31日まで)の行為 改正法附則第2条 改正前の罰則が適用される。両罰規定は施行後の行為にだけ適用

「拘禁刑」は、令和7年6月1日施行の刑法等の改正で「懲役」「禁錮」を一本化した刑名です。


建設業許可は拘禁刑で必要的取消しになる

消防施設工事業などの建設業許可を持つ会社では、刑事罰がそのまま許可に跳ね返ります。


建設業法の欠格要件と許可の取消し
・第8条第7号:拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者は許可を受けられない
・第8条第12号:法人の役員等または政令で定める使用人(支店長・営業所長など)に第7号の該当者がいれば、法人も許可を受けられない
・第29条第1項第2号:許可を受けた建設業者が第8条第7号から第14号までに該当するに至ったときは、許可を取り消さなければならない
・罰金にとどまる場合:行政書士法は第8条第8号が列挙する法令に含まれないため、罰金刑だけで直ちに欠格要件には当たらない


社長や役員が現場担当者に届出書類の作成を指示していた場合、指示した側も共犯として責任を問われ得ます。役員が拘禁刑(執行猶予付きを含む)を受ければ、会社の建設業許可そのものが失われます。「お客様へのサービス」のつもりの書類作成が、会社の営業基盤を失わせることになります。


よくある誤解と正しい理解

誤解1:「無料サービスだから報酬はもらっていない」

書類作成料を別に請求していなくても、点検料・工事代金・管理委託料の中にその手間が含まれていれば、報酬を得た作成です。改正後の第19条第1項が「いかなる名目によるかを問わず」と明記したのは、まさにこの形を想定しています。


誤解2:「消防の資格を持っているから作れる」

消防設備士は工事・整備の資格(消防法第17条の5)、点検資格者は点検の資格です。他人名義の届出書を作る資格ではありません。資格が根拠になるのは、自分が行った点検・工事の記録と、甲種消防設備士本人の着工届に限られます。


誤解3:「建設業許可があるから届出も業務の一部」

建設業法の「建設業」は建設工事の完成を請け負う営業です(同法第2条第2項)。建築士法第21条のように手続の代理を業務として認める規定は、建設業法にはありません。建設業許可は、消防署提出書類を報酬を得て作成できる根拠になりません。なお、建築士法第21条が認める手続の代理も「建築物の建築に関する」手続に限られます(前述の「建築士はどこまで代理できるか」参照)。


誤解4:「お客様の名前で、お客様が提出するから問題ない」

行政書士法が規制しているのは「作成」です。名義が関係者で、提出するのが関係者本人でも、中身を他人が報酬を得て業として作っていれば第19条第1項違反です。むしろ関係者名義の書類であることが、他人のための作成であることを示します。


誤解5:「今まで消防署に何も言われなかった」

消防署は書類の内容を審査する機関で、作成者の資格を毎回確認するとは限りません。しかし今回の逮捕のように、端緒は取引先などからの情報提供でも生まれます。過去に問題にならなかったことは、適法であることの証明にはなりません。


消防設備業者・管理会社がいますぐ見直すべき5つのポイント

自社チェックリスト
□ 点検・工事の見積書や契約書に「届出代行」「報告書作成」「書類作成サービス」の文言が入っていないか
□ 点検結果報告書の鑑、設置届出書、使用開始届、工事等計画届を、社員が顧客に代わって作成していないか
□ 消防計画や選任届のひな形を、建物ごとに内容を埋めて顧客に渡していないか
□ 下請・協力会社に、顧客の届出書類の作成を任せていないか
□ 社内で「書類作成は行政書士に依頼する」というルールと、その連絡先が共有されているか


一つでも当てはまる場合は、点検・工事と記録の作成は自社、届出書類の作成は行政書士という役割分担に切り替えることをおすすめします。行政書士と提携しておけば、顧客には「届出までまとめて任せられる」体制をそのまま提供できます。継続的に届出が発生する事業者向けには、顧問契約もご用意しています。


消防署提出書類の作成は当事務所にご相談ください

行政書士萩本昌史事務所は、東京消防庁管内の消防署への届出・報告書の作成と提出手続の代理を専門に扱っています。代表は特定行政書士であると同時に、消防設備士・防火対象物点検資格者・防災管理点検資格者の資格を持ち、点検の実務と届出書類の両方を理解したうえで対応します。


届出書類ごとの報酬額は、報酬額表にまとめて掲載しています。建物の規模・用途や設備の点数によって作業量が変わるため、正式なお見積りは建物の情報を確認したうえでご提示します。初回のご相談は無料です。


消防設備業者・ビル管理会社・内装業者の方へ
「自社で作っている書類のどれを切り替えるべきか知りたい」「顧客の届出をまとめて任せられる提携先を探している」というご相談をお受けしています。点検・工事のスケジュールに合わせて、届出書類の作成から消防署への提出まで対応します。

受付時間:平日9:00〜18:00(土日祝日はお問い合わせフォームで受付)
取扱業務の一覧は「消防署への届出・申請書類作成代行」をご覧ください。


よくある質問

Q1. 2026年10月の行政書士法違反の逮捕はどのような事件ですか?

2026年10月8日、静岡県警清水署が、行政書士の資格がないのに法人の依頼を受けて国土交通省に提出する特殊車両の通行許可申請書類を作成した疑いで、静岡県沼津市の53歳の男を逮捕した事件です。容疑の時期は2024年11月ごろで、警察は少なくとも1年以上無資格で業務を請け負っていたとみています(テレビ静岡・静岡朝日テレビ報道)。逮捕の段階であり、有罪が確定したものではありません。


Q2. 消防署に提出する書類でも同じように処罰されますか?

されます。消防署・消防本部は行政書士法第1条の3の「官公署」に当たります。防火管理者選任届、消防計画作成(変更)届出書、消防用設備等設置届出書、点検結果報告書の鑑などを、行政書士でない者が他人の依頼を受け報酬を得て業として作成すれば、国の機関あての書類と同じく第19条第1項違反です。


Q3. 点検料に含めた「無料サービス」なら違反になりませんか?

違反になります。令和8年1月1日施行の改正で、第19条第1項に「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」が加わりました。書類作成料を別に請求していなくても、点検料・工事代金・管理委託料などに書類作成の対価が含まれていれば、報酬を得た作成に当たります。


Q4. 消防設備士が点検結果報告書を作成するのは違反ですか?

点検票・点検結果総括表・点検者一覧表は、点検を行った資格者が自ら結果を記入する記録なので作成できます。一方、それらを束ねて消防署に提出する報告書の鑑は、報告義務者である関係者(消防法第17条の3の3)名義の官公署提出書類です。点検業者が報酬を得て業として鑑まで作成すれば、行政書士法第19条第1項違反です。


Q5. 消防用設備等設置届出書は工事をした業者が作成してよいですか?

届出本体は作成できません。設置届の届出義務者は関係者で(消防法第17条の3の2)、工事完了日から4日以内に届け出ます(規則第31条の3第1項)。工事業者が作成できるのは、自ら施工した工事の結果を記載する消防用設備等試験結果報告書などの技術資料までです。


Q6. 工事整備対象設備等着工届出書は誰が作成しますか?

工事を行う甲種消防設備士本人です。消防法第17条の14は、甲種消防設備士に、工事に着手しようとする日の10日前までの届出を義務づけています。本人の義務に基づく届出なので、甲種消防設備士が自ら作成・届出しても行政書士法の問題になりません。


Q7. 消防計画を設備業者やコンサルタントに作ってもらえますか?

報酬を払って外部の事業者に建物ごとの消防計画や届出書を作らせることはできません。消防計画は防火管理者が管理権原者の指示を受けて作成し届け出るものです(消防法施行規則第3条第1項)。社内の防火管理者が自ら作成するのは問題ありませんが、外部に依頼するなら行政書士に依頼してください。


Q8. 違反すると会社も罰せられますか?

罰せられます。行為者は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(行政書士法第21条の2)です。令和8年1月1日以後の行為には両罰規定(第23条の3)が適用され、従業者が業務に関して違反すれば会社・個人事業主にも100万円以下の罰金が科されます。役員が拘禁刑を受ければ建設業許可も取り消されます(建設業法第8条第7号・第12号、第29条第1項第2号)。


Q9. 2025年以前に作成した書類も処罰の対象になりますか?

なります。改正法附則第2条により、施行前の行為には改正前の罰則が適用されます。改正前の行政書士法でも、行政書士でない者が他人の依頼を受け報酬を得て官公署提出書類を業として作成することは禁止されていました。報道された逮捕事件も2024年11月ごろの行為が容疑です。ただし両罰規定は施行後の行為にだけ適用されます。


Q10. 関係者が作った書類を窓口に持っていくだけなら問題ありませんか?

関係者本人が作成した書類を、本人の使いとして窓口に届けるだけなら、書類の作成には当たりません。ただし内容を作り込み、消防署との事前相談や補正まで代わって行えば、実質的に書類の作成を業として行っていると評価され得ます。行政書士は、自ら作成した書類について提出手続を代理できます(行政書士法第1条の4第1項第1号)。


Q11. テナント入居の内装工事で、建築士が防火対象物使用開始届を作成・提出するのは行政書士法違反になりますか?

建築士がテナントの依頼を受け、報酬を得て業として使用開始届を作成すれば、行政書士法第19条第1項違反になります。設計料・監理料に含めている場合も同じです。建築士法第21条が建築士に認めているのは「建築物の建築に関する法令又は条例の規定に基づく手続の代理」で、「建築」は新築・増築・改築・移転を指します(建築基準法第2条第13号)。テナントの内装工事は修繕・模様替え・間取りの変更で「建築」ではなく、東京都火災予防条例第56条第1項もこれを「建築」(第1号)とは別の号(第2号)に置いています。また使用開始届は、防火対象物を使用しようとする者が使用開始日の7日前までに出す「使用」についての届出です(条例第56条の2第1項)。建築士が自ら設計した平面図などを添付図面として提供すること、テナント本人が作成した届出書を使いとして窓口に届けることは問題ありません。


Q12. 新築の場合は、建築士が消防署への届出を作成・代理できますか?

手続によって異なります。新築は「建築」に当たるため、建築確認申請・完了検査申請は建築士法第21条により建築士が代理できます。防火対象物工事等計画届出書は、建築確認を受けた場合は届出自体が不要です(東京都火災予防条例第56条第1項ただし書)。一方、防火対象物使用開始届出書は、新築であっても届出者は建物を使用しようとする者で、内容も「使用」についての届出です(条例第56条の2第1項)。建築に続く手続であるため解釈が分かれる余地はありますが、条文の構造からは建築士法第21条の範囲外と解するのが自然です。報酬を得て業として作成すれば行政書士法第19条第1項違反となるおそれがあるため、届出書本体は使用者本人が作成するか行政書士に依頼し、建築士は設計図書の提供にとどめるのが安全です。


参照した法令・公的資料・報道

・行政書士法(昭和26年法律第4号)第1条の3、第1条の4、第19条第1項、第21条の2、第23条の3
・行政書士法の一部を改正する法律(令和7年法律第65号)附則第1条・第2条
・総務省自治行政局長通知「行政書士法の一部を改正する法律の公布について」(令和7年6月13日付け総行行第281号)
・総務省消防庁「消防法令に基づく各種手続における行政書士法違反の防止について(通知)」(令和7年2月25日付け消防予第75号・消防危第30号・消防特第35号)
・消防法(昭和23年法律第186号)第7条、第8条、第8条の2、第8条の2の2、第17条の3の2、第17条の3の3、第17条の5、第17条の14、第36条
・消防法施行令(昭和36年政令第37号)第32条、第36条第2項
・消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第3条、第3条の2、第4条の2、第4条の2の4、第31条の3、第31条の6、第33条の18
・東京都火災予防条例(昭和37年東京都条例第65号)第56条、第56条の2、第57条
・建築基準法(昭和25年法律第201号)第2条第13号、第6条第1項、第7条
・建設業法(昭和24年法律第100号)第2条第2項、第8条、第29条第1項
・建築士法(昭和25年法律第202号)第21条
・テレビ静岡「行政書士の資格がないのに許可申請書類を代理作成したか」(2026年10月8日)
・静岡朝日テレビ「行政書士の資格がないのに国交省に提出する許可申請書を作成か」(2026年10月8日)


この記事を書いた人
萩本昌史(はぎもと まさし)/特定行政書士
保有資格:特定行政書士、消防設備士、防火対象物点検資格者、防災管理点検資格者
行政書士萩本昌史事務所/東京の消防手続支援ステーション
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本記事は2026年10月11日時点で確認した法令・公的資料・報道をもとにした一般的な解説です。報道された事件は捜査段階のものであり、被疑者の有罪を前提とするものではありません。法令改正、火災予防条例、管轄消防署の運用、個別の事情により結論が変わる場合があります。具体的な案件は、管轄の消防署および行政書士にご確認ください。

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