工事中の消防計画とは|対象・作成者・届出を行政書士が解説

工事中の消防計画とは|対象・作成者・届出を行政書士が解説

工事中の消防計画には「新築工事中」と「既存建物の工事中」の2種類があり、義務になるのは前者だけです。消防法施行令第1条の2第3項第2号の規模要件、消防法施行規則第3条第1項第2号の記載事項、東京消防庁の指導基準、消防用設備等を停止するときの代替措置まで、行政書士が条文根拠付きで解説します。

結論:工事中の消防計画には「新築工事中の消防計画」と「既存建物の工事中の消防計画」の2種類があり、法律上の義務になるのは前者だけです。新築工事中の建築物のうち、収容人員50人以上で一定規模以上のものは、消防法第8条第1項の防火対象物として扱われ(消防法施行令第1条の2第3項第2号)、管理権原者は防火管理者を選任し、防火管理者が工事中の消防計画を作成して所轄消防署長へ届け出る義務を負います(同令第3条の2第1項、消防法施行規則第3条第1項第2号)。一方、使用中のビルの改修工事やテナントの内装工事に伴う「工事中の消防計画」は、東京消防庁の指導基準に基づく届出であり、法令上の義務ではありません。
「ビルの改修工事で自動火災報知設備を止めるのに、何も届け出ていなかった」「新築現場で消防署から工事中の消防計画を出すよう言われたが、だれが作るのか分からない」——工事に関するご相談で、いちばん整理がついていないのがこの手続です。東京消防庁管内では、建物の新築・増改築・修繕・模様替え等の工事に関連した火災が毎年およそ100〜200件発生しており(東京消防庁「工事中の防火管理」)、消防機関が工事中の防火体制を重視するのは、この実績があるためです。
本記事は、東京都内(東京消防庁管内)で建物の新築工事・改修工事・テナント内装工事を予定している施工者・ビル所有者・テナント事業者の方に向けて、工事中の消防計画の法令根拠、対象となる建物、作成者と届出義務者、記載事項、届出実務、他の消防届出との関係、そして実務でつまずきやすい点を、消防法・同施行令・同施行規則・東京都火災予防条例・東京消防庁の指導基準および総務省消防庁の通知に沿って整理した実務ガイドです。


1. 工事中の消防計画とは|2種類あることを最初に押さえる

工事中の消防計画とは、建物の工事期間中に限って適用される防火管理の計画書のことです。工事中は、溶接・溶断による火気の使用、塗料やシンナーなどの危険物品の持込み、作業員の出入り、避難経路の遮断、消防用設備等の一時停止など、通常時とは火災危険の質も量も異なります。そのため、通常の消防計画とは別に、工事期間中の体制を定めた計画が必要になります。
実務上まず区別しなければならないのは、次の2種類です。この2つは根拠も、作成者も、義務かどうかも違います。

区分 どんな場面か 根拠 法律上の義務か
新築工事中の消防計画 まだ使われていない建物を建てている現場 消防法第8条第1項/消防法施行令第1条の2第3項第2号/消防法施行規則第1条の2第1項・第3条第1項第2号 義務(規模要件を満たす場合)
既存建物の工事中の消防計画 使用中のビル・店舗の増改築、改修、修繕、模様替え、テナント内装工事 東京消防庁の指導基準(届出そのものは法令上の義務ではない)。ただし工事中の火気管理は消防法施行規則第3条第1項第1号ルが通常の消防計画の記載事項として要求 義務ではない(指導)

東京消防庁の様式名も、この2区分に対応して「【新築工事】」と「【既存建物工事】」に分かれています。どちらの話をしているのかを取り違えたまま消防署に相談すると、必要な様式も添付図書もかみ合いません。


なぜ工事中に別の消防計画が必要なのか(制度趣旨)

消防法第8条第1項は、防火管理者に「消防計画の作成」と、その計画に基づく訓練の実施・消防用設備等の点検整備・火気の使用又は取扱いに関する監督・避難施設の維持管理・収容人員の管理などを行わせることを、管理権原者に義務づけています。この規定の前提は、「その建物を、だれが、どう使い、火災が起きたらだれがどう動くのか」があらかじめ決まっていることです。
ところが工事期間中は、この前提が崩れます。自衛消防組織の要員である従業員が減り、代わりに建物の構造を知らない工事作業員が多数入ります。避難階段が資材置場になり、防火戸が開放され、自動火災報知設備が停止し、日々現場の姿が変わります。通常の消防計画をそのまま当てはめても、実態に合わないのです。だからこそ、工事期間中だけの体制を別に定める必要があります。
この考え方は条文にも表れています。消防法施行規則第3条第1項は、消防計画の記載事項を第1号(通常の防火対象物用)と第2号(新築工事中・建造中の旅客船用)に書き分けており、第2号は「消火器等の点検及び整備」「避難経路の維持管理」「火気の使用又は取扱いの監督」「工事中に使用する危険物等の管理」といった、まさに工事現場向けの項目で構成されています。


【2026年最新】香港の高層住宅火災を受けた消防庁通知(消防予第120号)

工事中の防火安全対策は、直近で国レベルの通知が出た分野です。令和7年11月26日に香港の高層住宅で改修工事中の火災により多数の死傷者が発生したことを受け、総務省消防庁予防課長は令和8年3月30日付け「消防予第120号 工事中の防火対象物における火災予防上の留意事項について」を、各都道府県消防防災主管部長・各消防本部消防長等あてに発出しました。

消防予第120号(令和8年3月30日)の留意事項(4項目)
1 出火防止について:火気を使用する作業や火花が発生する作業等を行う際は、周囲の可燃物の除去や消火器等の準備、また、必要に応じて不燃性シートによる火花等の飛散防止を図ること。
2 工事用シートについて:工事用シートは、消防法令に基づき、防炎物品を使用すること。
3 改修工事中の消防用設備等の運用について:改修工事中においても、原則として消防用設備等の機能を維持する必要があるが、一部機能を停止させる必要のある場合は、停止させる範囲や時間を必要最小限とするとともに、工期や作業内容等に応じて代替設備の設置や巡回警戒等の対策を講じること。
4 火災発生時の応急対応等について:火災発生時は、直ちに消防機関への通報、初期消火を行うとともに、防火対象物の利用者に対して迅速な情報伝達と避難誘導を行うこと。また、工事の進捗によって作業者の配置や使用可能な避難経路等が変わる可能性があるため、当該状況に応じた火災時の情報伝達ルートや避難経路について、あらかじめ計画しておくこと。

この通知は消防組織法第37条に基づく助言であり、それ自体が新たな義務を課すものではありません。しかし、消防署が工事中の消防計画を審査する際の着眼点は、実質的にこの4項目と重なります。工事中の消防計画は、この4項目に具体的に答える文書として書くと、審査がスムーズです。


2. 法令上の根拠|条文をたどって確認する

工事中の消防計画の根拠は、消防法から施行令、施行規則へと三層でつながっています。他サイトの解説では条番号の誤りが目立つ箇所なので、条文そのものを確認しておきます。

規定 定めている内容
法律 消防法第8条第1項 政令で定める防火対象物の管理権原者は、防火管理者を定め、消防計画の作成等を行わせる
政令 消防法施行令第1条の2第3項第2号 新築の工事中の建築物で収容人員50人以上のもののうち、規模要件(イ・ロ・ハ)を満たし総務省令で定めるものを、法第8条第1項の防火対象物とする
省令 消防法施行規則第1条の2第1項 上記の「総務省令で定める建築物」=外壁及び床又は屋根を有する部分が規模要件以上で、電気工事等の工事中のもの
政令 消防法施行令第3条第1項第1号 防火管理者の資格。新築工事中の建築物は甲種防火対象物に含まれる
政令 消防法施行令第3条の2第1項 防火管理者は消防計画を作成し、所轄消防長又は消防署長に届け出なければならない
省令 消防法施行規則第3条第1項第2号 新築工事中の消防計画に定める事項(イ〜ヘ)。届出は別記様式第1号の2
省令 消防法施行規則第1条の3第1項 新築工事中の建築物の収容人員は「従業者の数」により算定する
指導基準 東京消防庁「工事中の消防計画」の指導基準 法令の義務対象に至らない新築工事、および既存建物の増改築工事等について届出を指導


新築工事中の建築物が「防火対象物」になる規模(令第1条の2第3項第2号)

消防法施行令 第1条の2第3項第2号
新築の工事中の次に掲げる建築物で、収容人員が五十人以上のもののうち、総務省令で定めるもの
イ 地階を除く階数が十一以上で、かつ、延べ面積が一万平方メートル以上である建築物
ロ 延べ面積が五万平方メートル以上である建築物
ハ 地階の床面積の合計が五千平方メートル以上である建築物

消防法施行規則 第1条の2第1項(工事中の防火対象物における防火管理)
消防法施行令第一条の二第三項第二号の総務省令で定める建築物は、外壁及び床又は屋根を有する部分が同号イ、ロ又はハに定める規模以上である建築物であつて電気工事等の工事中のものとする。

ここで重要なのは、規則第1条の2第1項が付け加えている2つの限定です。第一に、規模を測るのは建物全体ではなく「外壁及び床又は屋根を有する部分」です。つまり躯体が立ち上がり、外壁と床(または屋根)ができた部分が規模要件に達した時点で対象になります。基礎工事の段階では該当しません。第二に、「電気工事等の工事中」であることが必要です。内装・設備工事の段階に入り、火気や電気を使う工程になってから義務が生じる、という時間軸の限定です。


記載事項を定めるのは消防法施行規則第3条第1項第2号

消防法施行規則 第3条第1項第2号(令第一条の二第三項第二号に掲げる防火対象物(仮使用認定を受けたもの又はその部分を除く。)及び同項第三号に掲げる防火対象物)
イ 消火器等の点検及び整備に関すること。
ロ 避難経路の維持管理及びその案内に関すること。
ハ 火気の使用又は取扱いの監督に関すること。
ニ 工事中に使用する危険物等の管理に関すること。
ホ 前号イ及びトからヌまでに掲げる事項(自衛消防の組織/防火管理上必要な教育/消火・通報・避難の訓練の定期的な実施/災害発生時の消火活動・通報連絡・避難誘導/消防機関との連絡)
ヘ イからホまでに掲げるもののほか、防火対象物における防火管理に関し必要な事項

条文のかっこ書きに「仮使用認定を受けたもの又はその部分を除く」とある点は、実務上たいへん重要です。建築基準法第7条の6の仮使用認定を受けた部分については、この第2号ではなく第1号(通常の消防計画の記載事項)が適用されます。詳しくは第9章で扱います。


既存建物の「工事中の消防計画」は条例に規定がない

よくある誤りの指摘:「既存建物の工事中の消防計画は東京都火災予防条例第55条の3の3に基づく」という解説を見かけることがありますが、これは誤りです。東京都火災予防条例第55条の3の3は「防火管理技能者が防火管理業務計画を作成し消防署長に届け出る」ことを定めた、まったく別の規定です。東京都火災予防条例の全条文を確認しても、「工事中の消防計画」という届出を直接定めた規定は存在しません。既存建物の工事中の消防計画の届出は、東京消防庁の指導基準に基づく行政指導として運用されています。

では法令とまったく無関係かというと、そうではありません。消防法施行規則第3条第1項第1号は、通常の消防計画の記載事項として「増築、改築、移転、修繕又は模様替えの工事中の防火対象物における防火管理者又はその補助者の立会いその他火気の使用又は取扱いの監督に関すること」を挙げています。つまり、既存建物の工事中の火気監督は、もともと通常の消防計画に書いておくべき事項なのです。工事中の消防計画は、その部分を工事の実態に合わせて具体化し、届け出る運用だと理解すると位置づけが明確になります。
消防計画そのものの作り方は「消防計画の作成手順とポイントを徹底解説」、変更が必要になる場面は「消防計画の変更が必要なケースとは?詳しく解説!」で整理しています。


3. 対象となる建物|義務対象と指導対象を分けて確認する

東京消防庁管内では、対象が次の3グループに分かれます。自分の現場がどれに当たるかで、作成者も様式も変わります。


(1) 消防法上の義務対象|新築工事中の大規模建築物

次のア〜ウのいずれかの規模以上で、かつ収容人員が50人以上の新築工事中の建築物は、消防法第8条第1項の防火対象物です。管理権原者に防火管理者の選任義務があり、選任された防火管理者が新築工事中の消防計画を作成して届け出ます。

要件 内容
地階を除く階数が11以上で、かつ、延べ面積が10,000平方メートル以上
延べ面積が50,000平方メートル以上
地階の床面積の合計が5,000平方メートル以上
共通 「外壁及び床又は屋根を有する部分」が上記規模以上であり、電気工事等の工事中のもので、収容人員50人以上


収容人員50人は「従業者の数」=工事作業員の数で数える

新築工事中の建築物には利用者も客席もありません。ではだれを数えるのか。答えは条文にあります。消防法施行規則第1条の3第1項の表は、「令第1条の2第3項第2号に掲げる防火対象物(仮使用認定を受けたものを除く)」の収容人員の算定方法を「従業者の数により算定する」と定めています。工事現場における従業者とは、現場に入る工事作業員等です。
もっとも、作業員数は日によって変動します。この点について東京消防庁は、収容人員を「工事作業員等の作業員の数で、工事期間中で1日の作業員の数が最大となる数」とする考え方を示しています。これは条文そのものではなく東京消防庁の運用ですので、工程上のピーク人数の見込みと数え方は、所轄消防署に確認してください。用途別の一般的な収容人員の数え方は「防火対象物の収容人員の計算方法を用途区分別に徹底解説」で詳しく解説しています。


(2) 東京消防庁が届出を指導する新築工事中の防火対象物

(1)の義務対象に届かない新築工事でも、次に該当する場合は東京消防庁の指導基準により「新築工事中の消防計画」の届出を指導されます。この場合は工事施工責任者が計画を作成して届け出ます(防火管理者の選任と届出は不要です)。

区分 内容
地階の階数が3以上
地階を除く階数が11以上で、かつ、延べ面積が3,000平方メートル以上
ア・イのほか、消防署長がその構造、用途等から人命安全対策上又は火災予防上必要と認めるもの


(3) 既存建物の増改築工事等で届出を指導される場合

使用中の建物の工事では、防火管理義務対象物のうち次に該当するものについて、東京消防庁が「工事中の消防計画」の届出を指導しています。

区分 内容
建築基準法第7条の6に基づき特定行政庁に仮使用するための申請がなされたもの
消防法第17条に規定する消防用設備等の増設、移設等の工事により、当該設備の機能を停止させるもの又は機能に著しく影響を及ぼすもの
防火対象物の構造、用途等から判断して、人命安全対策上又は火災予防上必要と消防署長が認めるもの

実務でいちばん多いのはイです。自動火災報知設備の感知器を一時的に外す、スプリンクラーヘッドの位置を変えるために配管の水を抜く、防火シャッターの改修で一時的に閉鎖できなくする——こうした工事はすべてイに当たります。テナントの内装工事でも、感知器の移設を伴えば該当し得ます。「小さな内装工事だから関係ない」と判断せず、設備に触るかどうかで考えてください。


4. だれが作成し、だれが届け出るのか

工事中の消防計画は、区分によって作成者が変わります。ここを取り違えると、届出そのものが受理されません。

区分 管理権原者 計画の作成者 防火管理者の選任
(1) 新築・消防法の義務対象 工事現場の作業管理、工事に関する物品管理等に係る管理権原を有する工事の受注者等 防火管理者(甲種) 必要(選任・解任を消防署長へ届出)
(2) 新築・東京消防庁の指導対象 同上 工事施工責任者 不要
(3) 既存建物の工事 建物又はテナント区画の管理権原者 防火管理者(工事が2以上の管理権原者に及ぶ統括防火管理義務対象物では統括防火管理者 既存の選任を前提とする


新築工事中の「管理権原者」は施主ではなく工事の受注者等

ここは誤解が非常に多い箇所です。完成後の建物の管理権原者は所有者や賃借人ですが、工事中の建築物については、現場の作業と物品を実際に管理している者、すなわち工事の受注者(元請の施工者)等が管理権原者になるというのが東京消防庁の整理です。したがって防火管理者を選任するのも、届出をするのも、原則として施主ではなく施工者側です。工事請負契約の段階で、防火管理者の選任と届出の責任がどちらにあるのかを明確にしておくと、着工後の混乱を避けられます。


既存建物では防火管理者、複数の管理権原に及ぶときは統括防火管理者

使用中の建物の工事では、その建物(またはテナント区画)の防火管理者が工事中の消防計画を作成します。工事が2以上の管理権原者に及ぶ統括防火管理義務対象物では、統括防火管理者が作成します。統括防火管理者は、高層建築物(高さ31メートルを超える建築物)その他政令で定める防火対象物で管理権原が分かれているものについて、管理権原者が協議して定めることとされています(消防法第8条の2第1項)。各テナントの消防計画は、統括防火管理者が作成する全体についての消防計画に適合していなければなりません(同条第3項)。統括防火管理の考え方は「統括防火管理者と協議会の設置|複合建物における防火管理の要点を行政書士が徹底解説」で詳しく整理しています。


新築工事中の防火管理者の資格は「甲種」

消防法施行令第3条第1項第1号は、令第1条の2第3項各号に掲げる防火対象物(第1号ロ・ハの一部を除く)を「甲種防火対象物」と定義しています。新築工事中の建築物は同項第2号に掲げられていますので、甲種防火対象物にあたり、防火管理者は甲種防火管理講習の課程を修了した者等でなければなりません。乙種では務まりません。あわせて、防火管理上必要な業務を適切に遂行できる管理的又は監督的な地位にあることも必要です。現場代理人や工事担当所長が選任されることが多いのは、この要件があるためです。防火管理者の選任要件は「防火管理者の選任の必要な建物と実務フロー」で詳しく解説しています。


5. 消防計画に何を書くか|記載事項


新築工事中の消防計画(規則第3条第1項第2号)

条文の記載事項と、東京消防庁が「新築工事中の消防計画に定める内容」として示している10項目は、次のように対応します。

東京消防庁が示す記載内容 条文上の根拠
ア 自衛消防の組織に関すること 規則第3条第1項第2号ホ(第1号イ)
イ 消火器等の点検及び整備に関すること 同項第2号イ
ウ 避難経路の維持管理及びその案内に関すること 同項第2号ロ
エ 火気の使用又は取扱いの監督に関すること 同項第2号ハ
オ 工事中に使用する危険物等の管理に関すること 同項第2号ニ
カ 防火管理上必要な教育に関すること 同項第2号ホ(第1号ト)
キ 消火、通報及び避難訓練その他防火管理上必要な訓練の定期的な実施に関すること 同項第2号ホ(第1号チ)
ク 火災、地震その他の災害が発生した場合における消火活動、通報連絡及び避難誘導に関すること 同項第2号ホ(第1号リ)
ケ 防火管理についての消防機関との連絡に関すること 同項第2号ホ(第1号ヌ)
コ その他防火管理に関し必要な事項 同項第2号ヘ

なお、防火管理上必要な業務の一部を他者に委託している場合は、受託者の氏名及び住所、受託業務の範囲及び方法を消防計画に定めなければなりません(規則第3条第2項)。警備会社に夜間の巡回を委託している現場では、この記載が抜けがちです。


既存建物の工事中の消防計画(東京消防庁が示す記載内容)

既存建物の工事中の消防計画は、東京消防庁が「すべての工事中の消防計画に定める事項」と「該当する場合に定める事項」に分けて示しています。

区分 定める事項
すべての工事中の消防計画に定める事項 ア 工事計画及び施工に関すること
すべての工事中の消防計画に定める事項 イ 工事中の防火管理体制に関すること
すべての工事中の消防計画に定める事項 ウ 工事期間中の工事人の教育・訓練の実施及び工事中の消防計画の周知に関すること
すべての工事中の消防計画に定める事項 エ その他工事に伴う特異事項
該当する場合に定める事項 ア 工事に伴い機能に支障が生じる消防用設備等の代替措置に関すること
該当する場合に定める事項 イ 工事に伴い機能に支障が生じる避難施設等の代替措置に関すること
該当する場合に定める事項 ウ 火災発生危険等の対策に関すること
該当する場合に定める事項 エ 工事に伴い使用する危険物品の管理に関すること


消防用設備等の機能停止と代替措置の書き方

審査で最も細かく見られるのが、この項目です。前掲の消防予第120号が「改修工事中においても、原則として消防用設備等の機能を維持する必要がある」と明言していることからも分かるとおり、機能停止は例外的な措置として扱われます。計画には、少なくとも次の要素を具体的に書き込んでください。

  • 停止する設備の種類と範囲(例:3階Aテナント区画の感知器12個)
  • 停止する期間と時間帯(何月何日の何時から何時まで。必要最小限であることが分かる書き方)
  • 代替措置の内容(消火器の増設配置、仮設の警報装置、無線機を携行した巡回警戒の頻度と担当者、隣接区画への周知方法)
  • 復旧の手順と確認者(作業終了後にだれが復旧を確認し、記録するか)
  • 停止中に火災が発生した場合の通報・初期消火・避難誘導の手順

実務のポイント:「工事の進捗によって作業者の配置や使用可能な避難経路等が変わる」ことは、消防予第120号も指摘しています。工期の長い改修工事では、1本の計画で全期間をカバーしようとせず、工程の段階(フェーズ)ごとに避難経路図と体制図を分けて添付すると、審査でも現場でも実効性が上がります。工程が変わったときは変更届で更新してください。


6. 届出実務|だれが・何を・いつまでに・どこへ

要素 内容
だれが 新築(義務対象)=防火管理者/新築(指導対象)=工事施工責任者/既存建物=防火管理者又は統括防火管理者
何を 工事中の消防計画作成(変更)届出書+消防計画書(本体)+必要に応じ図面等
いつまでに 条文上の期限の定めはない。実務上は工事着手前(消防用設備等の機能停止を伴う場合はその作業前)に届出を済ませる
どこへ 建物の所在地を管轄する消防署(窓口は予防課)
部数 届出書および計画書 1部(控えが必要な場合は2部)


様式は5種類|自分の現場がどれに当たるかで選ぶ

東京消防庁の様式は、第3章で整理した区分にそのまま対応しています。令和8年4月1日に消防計画書の様式が一部変更されているため、手元に古い様式が残っている場合は差し替えてください。

様式 名称 使う場面
1-1 【新築工事】消防計画作成(変更)届出書 消防法に基づく義務対象(第3章(1))
1-2 【新築工事】工事中の消防計画作成(変更)届出書 東京消防庁の指導基準に基づく対象(第3章(2))
1-3 【新築工事】新築工事中の消防計画書 1-1または1-2に添付する計画書本体
2-1 【既存建物工事】工事中の消防計画作成(変更)届出書 既存建物の増改築工事等(第3章(3))
2-2 【既存建物工事】工事中の消防計画書 2-1に添付する計画書本体

あわせて、新築工事で防火管理者を選任した場合は防火管理者選任(解任)届出書の提出が必要です(消防法第8条第2項)。届出書と計画書はセットで扱われますので、選任届と消防計画作成届を同時に提出するのが一般的です。


提出方法は窓口・郵送・電子申請の3通り

東京消防庁管内では、窓口持参のほか、郵送および電子申請が利用できます。窓口の受付時間は平日の午前8時30分から午後5時15分までです。郵送の場合、控えが必要なときは宛名を記入して切手を貼った返信用封筒を同封します。担当者名と連絡先が分かるようにしておくと、内容確認の連絡がスムーズです。


期限が条文にないからこそ「事前相談」が実務の要になる

工事等計画届出書(7日前)や着工届(10日前)と違い、工事中の消防計画には条文上の提出期限がありません。これは「いつでもよい」という意味ではなく、工事の内容と消防署の判断によって必要な時期が変わるため、個別に調整するしかないということです。特に既存建物の工事は、そもそも届出を指導される対象に当たるかどうか自体が消防署長の判断(第3章(3)ウ)を含みます。

おすすめの進め方:工事の内容(用途・規模・工期・消防用設備等に触れるか・仮使用の有無)を整理したメモを持って、着工の1か月前までに所轄消防署の予防課に事前相談してください。この段階で「工事中の消防計画は必要か」「どの様式か」「工事等計画届出書や着工届も要るか」がまとめて確認できます。所轄によって求められる資料の粒度に差があるため、この確認を省くと後戻りが発生します。


7. 工事で発生する他の消防手続との関係

工事中の消防計画は、工事に伴う消防手続の1本にすぎません。期限が定められている手続が前後に並んでいるため、全体を逆算して組む必要があります。

手続 根拠 期限 だれが
防火対象物工事等計画届出書 東京都火災予防条例第56条第1項 工事着手の7日前まで 工事をしようとする者
工事整備対象設備等着工届出書 消防法第17条の14 工事着手の10日前まで 甲種消防設備士
少量危険物貯蔵取扱所・指定可燃物貯蔵取扱所の設置の届出 東京都火災予防条例第58条第1項 設置しようとする日(工事を伴う場合は工事着手の日)の10日前まで 設置しようとする者
火を使用する設備等(厨房設備・変電設備・蓄電池設備等)の設置届出 東京都火災予防条例第57条第1項 工事着手の7日前まで 設置しようとする者(内容を変更しようとする者を含む)
消防用設備等の設置計画の届出(誘導灯・避難器具・排煙設備等。着工届の対象を除く) 東京都火災予防条例第58条の2第1項 工事着手の10日前まで 指定防火対象物等において設置しようとする者
工事中の消防計画作成(変更)届出書 消防法施行令第3条の2第1項・規則第3条第1項第2号/東京消防庁の指導基準 期限の定めなし(工事着手前が実務) 防火管理者・統括防火管理者・工事施工責任者
消防用設備等設置届出書・検査 消防法第17条の3の2 工事完了後4日以内 関係者(防火対象物の所有者・管理者・占有者)
防火対象物使用開始届出書 東京都火災予防条例第56条の2第1項 使用開始の7日前まで 使用しようとする者

各届出の全体像は「消防届出は行政書士へ|東京消防庁管内の届出一覧・期限・依頼できる範囲を徹底解説」に一覧でまとめています。使用開始届の詳細は「防火対象物使用開始届出書とは?提出期限・添付書類・消防検査・罰則を行政書士が解説【東京】」、飲食店の出店工事に伴う手続は「飲食店出店時の消防手続きを徹底解説|工事計画届出書・必要書類一覧【東京消防庁管内】」で解説しています。


逆算スケジュールの例(既存ビルの改修工事)

時期 やること
着工の1か月前まで 所轄消防署の予防課へ事前相談(工事内容・設備の機能停止の有無・仮使用の有無を提示)
着工の10日前まで 着工届(甲種消防設備士)、少量危険物の届出、消防用設備等の設置計画の届出
着工の7日前まで 防火対象物工事等計画届出書、火を使用する設備等の設置届出
着工前 工事中の消防計画作成(変更)届出書(設備の機能を停止する作業の前までに)
工事中 工程変更・工期延長があれば変更届。作業員への周知・教育、機能停止時の巡回警戒の記録
工事完了後4日以内 消防用設備等設置届出書を提出し、検査を受ける
使用開始の7日前まで 防火対象物使用開始届出書。指定防火対象物等では使用開始前の検査
工事完了後 工事中の消防計画を終了させ、通常の消防計画に戻す(内容が変わっていれば変更届)


8. 工事中にかかる「消防計画以外」の規制

工事中の消防計画を作っても、そこに書いた対策の裏づけとなる規制を知らなければ、実効性のある計画にはなりません。東京で工事を行う際に必ず押さえるべき3つを挙げます。


溶接・溶断作業(東京都火災予防条例第28条)

東京都火災予防条例 第28条第1項(溶接作業等)
溶接作業、溶断作業、グラインダーによる研摩作業、トーチランプによる加熱作業、アスファルト溶解作業、びよう打ち作業その他の火花を発し、又は発炎を伴う作業を行う場合は、消火の準備を行うとともに、火花の飛散、落下又は接炎等による火災の発生を防止するため、次に掲げる措置を講じなければならない。
一 湿砂の散布、散水、不燃材料による遮熱又は難燃性を有するシートによる遮へい
二 可燃性物品の除去
三 作業中の監視及び作業後の点検
四 前三号に掲げるもののほか、火災予防上有効と認められる措置

同条第2項は、令別表第一に掲げる防火対象物(工事中のものを含む。)内で、可燃性の蒸気・ガスを著しく発生する物品を使用する作業や、爆発性・可燃性の粉じんを発生する作業を行う場合について、換気・除じん・火気の制限、作業中の監視及び作業後の点検等の措置を義務づけています。「工事中のものを含む」と明記されている点が重要で、工事現場だからこの条例の適用外、ということはありません。
とりわけ「三 作業中の監視及び作業後の点検」は、火災事例で繰り返し問題になる項目です。溶接の火花が可燃物の内部でくすぶり、作業終了後しばらくしてから出火する事例が典型です。工事中の消防計画では、火気作業の許可制(火気使用願)、監視人の配置、作業終了後の点検時刻と担当者まで書き込んでおくことをおすすめします。


工事用シートは「防炎物品」でなければならない

消防予第120号が挙げた「工事用シートは防炎物品を使用すること」は、条文上の根拠があります。消防法施行令第4条の3第1項は、防炎規制の対象となる防火対象物として、劇場・キャバレー・旅館・病院等に加えて「工事中の建築物その他の工作物」を挙げています。そして同条第3項は、防炎対象物品としてカーテンやじゆうたん等と並べて「工事用シート」を明記しています。
具体的にどの工事中の工作物が対象になるかは消防法施行規則第4条の3第1項が定めており、①建築物(都市計画区域外のもっぱら住居の用に供するもの及びこれに附属するものを除く)②プラットホームの上屋 ③貯蔵槽 ④化学工業製品製造装置 ⑤③④に類する工作物、が対象です。つまり都内の建築工事現場は、原則としてすべて防炎規制の対象です。防炎性能を有する物品には防炎表示が付されていますので(消防法第8条の3第2項)、現場に搬入したシートの防炎ラベルを確認し、写真で記録しておくと、立入検査でも説明できます。


塗料・シンナー・接着剤は「少量危険物」になり得る

塗装工事や防水工事で使う塗料・シンナー・接着剤の多くは、消防法上の第4類危険物(引火性液体)です。指定数量の5分の1以上、指定数量未満の危険物を貯蔵し、又は取り扱う場所は少量危険物貯蔵取扱所にあたり、これを設置しようとする者は、東京都火災予防条例第58条第1項により、設置しようとする日(工事を伴う場合は工事に着手する日)の10日前までに消防署長へ届け出なければなりません。届出をせず、又は虚偽の届出をして貯蔵・取扱いをした者には10万円以下の罰金が定められています(同条例第67条の2第6号)。「工事中に使用する危険物等の管理に関すること」は消防計画の法定記載事項(規則第3条第1項第2号ニ)でもありますので、消防計画と少量危険物の届出はセットで検討してください。詳しくは「少量危険物の種類及び指定数量に関する解説:消防法及び関連条例の適用」で解説しています。


9. 例外・特例が問題になる場面


仮使用認定を受けた部分は「通常の消防計画」の記載事項に戻る

大規模な工事では、建物の一部を先行して使いはじめる仮使用が行われます。建築基準法第7条の6第1項は、検査済証の交付前に建物を使用することを原則として禁じたうえで、特定行政庁が安全上・防火上・避難上支障がないと認めたとき(第1号)、建築主事等または指定確認検査機関が国土交通大臣の定める基準に適合していることを認めたとき(第2号)などに、仮に使用できることを定めています。
この仮使用認定を受けると、消防法令上の扱いが変わります。消防法施行規則第3条第1項第1号は、令第1条の2第3項第2号の防火対象物のうち「仮使用認定を受けたもの又はその部分に限る」ものを、通常の防火対象物と同じ記載事項の対象に含めています。逆に同項第2号は「仮使用認定を受けたもの又はその部分を除く」としています。つまり仮使用部分は工事現場ではなく「使われている建物」として扱われ、避難施設の維持管理、防火上の構造の維持管理、定員の遵守といった通常の項目まで書く必要が生じます。
収容人員の数え方も変わります。規則第1条の3第1項の表は、仮使用認定を受けた新築工事中の建築物について、仮使用認定を受けた部分はその用途に応じた通常の算定方法、その他の部分は従業者の数を合算する、と定めています。仮使用が始まった時点で収容人員が跳ね上がり、防火管理の義務内容が変わる可能性があるということです。


テナント区画だけの内装工事はどう考えるか

ビルの1区画だけの内装工事は、多くの場合(3)の「既存建物の工事」に当たります。判断の分かれ目は、その工事が消防用設備等の機能を停止させるか、機能に著しく影響を及ぼすかです。感知器の移設・撤去、スプリンクラーヘッドの増設・移設、非常放送スピーカーの位置変更、防火区画の一時的な開放などが典型です。
加えて実務上見落とされやすいのが、工事の影響が自分の区画で完結しない点です。自動火災報知設備は建物全体で一つの系統ですし、避難階段は他のテナントも使います。統括防火管理義務対象物では、テナント単独で判断せず、ビルの統括防火管理者(防災センター)に必ず事前に連絡してください。テナント入居時の防火管理手続全般は「テナント入居時の防火管理手続きと注意点」で整理しています。


解体工事・原状回復工事の扱い

令第1条の2第3項第2号は「新築の工事中」の建築物を対象としており、解体工事は文言上含まれません。しかし解体・原状回復工事は、火気を使う作業、可燃物の集積、消防用設備等の撤去を伴うことが多く、火災危険はむしろ高い工程です。使用中の建物での解体・原状回復工事は、(3)ウの「消防署長が必要と認めるもの」として工事中の消防計画の届出を求められることがあります。また、東京都火災予防条例第28条の溶接作業等の規制は、工事の種類を問わず適用されます。解体だから届出は不要、と自己判断せず、事前相談で確認してください。


工期の延長・工程の変更があったとき

届出の名称が「作成(変更)届出書」となっているとおり、消防計画を変更するときも届出が必要です(消防法施行規則第3条第1項後段「防火管理に係る消防計画を変更するときも、同様とする。」)。工期の延長、施工範囲の追加、防火管理者や工事施工責任者の交代、機能停止する設備の追加は、いずれも変更事由になり得ます。現場では工程変更が日常的に起きますので、どの程度の変更で届け出るのかを、最初の事前相談のときに所轄消防署と握っておくと、後から慌てずに済みます。


用途変更を伴う工事は「工事中」だけの問題では終わらない

事務所を飲食店に、倉庫を物販店舗にするような用途変更工事では、工事中の消防計画に加えて、用途変更後に必要となる消防用設備等が変わる可能性があります。消防法施行令別表第一のどの項に当たるかで、設置義務のある設備も、防火管理者の要否も、収容人員の算定方法も変わります。用途判定は「消防法における建物の用途判定とは?消防法施行令 別表第1に基づく建物の用途について解説」で詳しく解説しています。工事の届出だけを見て着工すると、完成後の設備設置で手戻りが生じます。


10. よくある誤解と注意点


誤解1「工事中の消防計画は東京都火災予防条例に基づく届出だ」

誤りです。東京都火災予防条例に「工事中の消防計画」の届出を定めた規定はありません。新築工事中の消防計画は消防法第8条・令第1条の2第3項第2号・規則第3条第1項第2号に基づく法令上の義務、既存建物の工事中の消防計画は東京消防庁の指導基準に基づく届出です。条例第55条の3の3は防火管理技能者の防火管理業務計画の規定であり、別物です。


誤解2「新築工事は必ず工事中の消防計画が必要」

必要とは限りません。法令上の義務対象は収容人員50人以上かつ規模要件(11階以上かつ1万平方メートル以上/5万平方メートル以上/地階5千平方メートル以上)を満たすものに限られます。ただし、地階3以上、または11階以上かつ3,000平方メートル以上の新築工事は、東京消防庁の指導基準により届出を指導されます。「義務ではない=出さなくてよい」ではありません。


誤解3「工事中の消防計画を出せば工事等計画届出書は不要」

別の手続です。防火対象物工事等計画届出書は東京都火災予防条例第56条第1項に基づき、指定防火対象物等の建築・修繕・模様替え等をしようとする者が工事着手の7日前までに届け出るものです。工事中の消防計画は工事期間中の防火管理体制を定める文書で、目的も根拠も異なります。両方必要になる場面が普通にあります。


誤解4「防火管理者は施主(発注者)が選任する」

新築工事中の建築物については誤りです。東京消防庁は、管理権原者を「工事現場の作業管理、工事に関する物品管理等に係る管理権原を有する工事の受注者等」と整理しています。実務上は施工者側が防火管理者を選任し、届け出ます。請負契約でこの分担を明記しておいてください。


誤解5「工事中は自動火災報知設備を止めても仕方がない」

「仕方がない」で済ませてはいけません。消防予第120号は「原則として消防用設備等の機能を維持する必要がある」としたうえで、やむを得ず停止する場合は停止させる範囲や時間を必要最小限とし、代替設備の設置や巡回警戒等の対策を講じることを求めています。停止の事実だけでなく、範囲・時間・代替措置・復旧確認までを計画に書くのが実務の標準です。


誤解6「小さな内装工事なら消防署に相談しなくてよい」

規模ではなく設備と避難施設に触れるかどうかで判断してください。区画面積が小さくても、感知器を外す、防火戸の閉鎖を妨げる、避難通路に資材を置くといった行為は、建物全体の安全に影響します。統括防火管理義務対象物では、ビル側の統括防火管理者への連絡も必須です。


誤解7「工事中の消防計画には期限がないから後で出せばよい」

条文上の期限がないのは事実ですが、実質的な期限は「工事着手前」、より正確には「その危険が生じる作業の前」です。消防用設備等を停止した後に届出をしても、消防機関が事前に代替措置を確認する機会が失われます。仮使用認定の申請と連動する場合は、特定行政庁側のスケジュールにも縛られます。


誤解8「東京で通ったやり方は全国どこでも通る」

通りません。新築工事中の消防計画は消防法令に基づくため全国共通ですが、既存建物の工事中の消防計画の届出は各消防本部の指導基準によります。対象の考え方、様式、添付資料は自治体ごとに異なります。多店舗展開や複数現場を抱える事業者ほど、この点で足をすくわれます。出店先・現場ごとに、管轄消防本部の運用を確認してください。


11. 罰則と行政指導のリスク

工事中の消防計画そのものに直接の罰則規定はありません。しかし「罰則がない=リスクがない」ではありません。消防法は、命令を経由して罰則につながる構造になっています。

違反の内容 根拠 効果
防火管理者が定められていない 消防法第8条第3項 消防長又は消防署長が選任命令を発することができる
選任命令に違反した 消防法第42条第1項第1号 6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(情状により併科)
防火管理上必要な業務が法令・消防計画に従って行われていない 消防法第8条第4項 消防長又は消防署長が必要な措置を講ずべきことを命ずることができる
措置命令に違反した 消防法第41条第1項第2号 1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(情状により併科)
防火管理者の選任・解任の届出を怠った 消防法第8条第2項・第44条第8号 30万円以下の罰金又は拘留
着工届(消防法第17条の14)を怠った 消防法第44条第8号 30万円以下の罰金又は拘留
防火対象物使用開始届出書を提出せずに使用した 東京都火災予防条例第67条の2第4号 10万円以下の罰金
法人の従業者等が業務に関して違反した 消防法第45条第3号/東京都火災予防条例第68条 両罰規定により法人にも罰金刑

実務上の本当のリスクは罰則ではありません。工事中の消防計画が未提出のまま消防用設備等を停止していた事実が立入検査(消防法第4条)や火災後の調査で判明すれば、是正指導の対象になります。仮使用認定の手続が滞れば工程が止まります。そして万一火災が発生した場合、防火管理体制の不備は民事上の責任や保険金支払いの判断にも影響します。立入検査への備えは「消防署の立入検査と行政書士の役割|事業者が知っておきたい実務ポイント」で解説しています。


12. 行政書士に依頼できる範囲と役割分担

工事中の消防計画作成(変更)届出書は、消防署長という官公署に提出する書類ですので、その作成は行政書士の業務です(行政書士法第1条の3第1項)。官公署へ提出する手続の代理も、行政書士の業務範囲に含まれます(同法第1条の4第1項第1号)。そして、行政書士または行政書士法人でない者は、他人の依頼を受け、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業としてこれらの書類作成業務を行うことができません(同法第19条第1項)。違反した者は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処せられます(同法第21条の2)。

手続・作業 担当する専門家
工事中の消防計画作成(変更)届出書・消防計画書の作成・提出 行政書士(防火管理体制や工事内容そのものは事業者・施工者が決定する)
防火管理者選任(解任)届出書の作成・提出 行政書士
防火対象物工事等計画届出書・使用開始届出書の作成・提出 行政書士
少量危険物の貯蔵取扱いの届出 行政書士
工事整備対象設備等着工届出書 甲種消防設備士(消防法第17条の14で届出義務者が法定されている)
消防用設備等の工事・整備、消防用設備等試験結果報告書 消防設備士
平面図・立面図・断面図等の設計図書の作成、仮使用認定の申請 建築士・設計者
防火管理者の資格取得(甲種防火管理講習の受講) 選任される本人(代理受講はできない)

着工届は消防法が届出義務者を甲種消防設備士と定めているため、行政書士が代わって届け出ることはできません。「行政書士に頼めばすべて終わる」わけではなく、消防設備士・建築士との役割分担を着工前に整理しておくことが、結局いちばん早いというのが実務の実感です。行政書士法との関係は「消防署への提出書類作成と行政書士法違反の防止について」で詳しく整理しています。
当事務所の報酬額は報酬額表に掲載しています(すべて税抜)。金額に幅を持たせているのは、建物の規模・用途、工期、消防用設備等の機能停止の有無、消防署との事前協議の回数によって作業量が変わるためです。正式なお見積りは、工事の内容を確認させていただいたうえでご提示します。現場が続く施工者・不動産管理会社向けに顧問契約もご用意しています。


着工前に必要な消防届出、まとめて洗い出します

工事中の消防計画には条文上の提出期限がありません。だからこそ、着工日から逆算して「いつ・何を・だれが」出すのかを最初に決めておく必要があります。着工届は10日前、工事等計画届出書は7日前。1本抜けているだけで、工程も検査も止まります。
建物の所在地・用途・規模・工期・消防用設備等に触れる工事かどうか・仮使用の予定をお知らせいただければ、必要な消防届出の洗い出し、提出期限を逆算したスケジュール表の作成、所轄消防署への事前相談、工事中の消防計画の作成・届出まで、行政書士として一貫してご支援します。
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☎ 03-6783-6727/FAX 03-6750-2225 受付時間:平日 9:00〜18:00(土日祝日はお問い合わせフォームで受付)
行政書士 萩本昌史事務所|東京の消防手続支援ステーション


13. よくある質問


Q1. 工事中の消防計画とは何ですか。通常の消防計画とどう違いますか。

工事中の消防計画とは、建物の工事期間中に限って適用される防火管理の計画書です。工事中は溶接・溶断による火気の使用、危険物品の持込み、避難経路の遮断、消防用設備等の一時停止など、通常時と火災危険の質も量も異なるため、通常の消防計画とは別に定めます。新築工事中の消防計画については、消防法施行規則第3条第1項第2号が通常の消防計画(同項第1号)とは別の記載事項を定めています。具体的には、消火器等の点検及び整備、避難経路の維持管理、火気の使用又は取扱いの監督、工事中に使用する危険物等の管理、自衛消防の組織、教育・訓練、災害時の消火活動・通報連絡・避難誘導、消防機関との連絡です。


Q2. 工事中の消防計画は法律上の義務ですか。根拠は何条ですか。

新築工事中の消防計画は法律上の義務です。消防法第8条第1項、消防法施行令第1条の2第3項第2号、同令第3条の2第1項、消防法施行規則第1条の2第1項および第3条第1項第2号が根拠です。一方、使用中の建物の増改築工事等に伴う「工事中の消防計画」の届出は、東京消防庁の指導基準に基づくもので、法令上の義務ではありません。東京都火災予防条例に「工事中の消防計画」の届出を定めた規定はありません。ただし、既存建物の工事中の火気監督は、消防法施行規則第3条第1項第1号ルにより通常の消防計画の記載事項とされています。


Q3. 新築工事中に防火管理者の選任と消防計画が義務になるのは、どのくらいの規模の建物ですか。

消防法施行令第1条の2第3項第2号により、収容人員が50人以上で、次のいずれかに該当する新築工事中の建築物です。ア 地階を除く階数が11以上で、かつ、延べ面積が10,000平方メートル以上/イ 延べ面積が50,000平方メートル以上/ウ 地階の床面積の合計が5,000平方メートル以上。さらに消防法施行規則第1条の2第1項により、「外壁及び床又は屋根を有する部分」がこの規模以上であり、かつ「電気工事等の工事中」のものに限られます。躯体ができる前や、電気工事等に入る前の段階では対象になりません。


Q4. 新築工事中の建築物の「収容人員50人以上」は、だれを数えるのですか。

工事現場に入る工事作業員等(従業者)を数えます。消防法施行規則第1条の3第1項の表は、令第1条の2第3項第2号に掲げる防火対象物(仮使用認定を受けたものを除く)の収容人員を「従業者の数により算定する」と定めています。日によって作業員数が変動する点について、東京消防庁は「工事期間中で1日の作業員の数が最大となる数」とする考え方を示しています。これは条文ではなく東京消防庁の運用ですので、ピーク人数の見込みと数え方は所轄消防署に確認してください。なお、仮使用認定を受けた部分がある場合は、その部分を用途に応じて算定した数と、その他の部分の従業者の数を合算します。


Q5. 義務対象でなくても「工事中の消防計画」の届出を求められることがありますか。

あります。東京消防庁は、新築工事について①地階の階数が3以上 ②地階を除く階数が11以上で延べ面積3,000平方メートル以上 ③消防署長がその構造、用途等から人命安全対策上又は火災予防上必要と認めるものを指導基準の対象とし、「新築工事中の消防計画」の届出を指導しています。この場合は防火管理者の選任は不要で、工事施工責任者が計画を作成して届け出ます。法令上の義務ではありませんが、消防署からの指導に従わないと、その後の検査や協議に支障が生じます。


Q6. ビルの改修工事やテナントの内装工事でも工事中の消防計画は必要ですか。

東京消防庁は、防火管理義務対象物のうち①建築基準法第7条の6に基づき特定行政庁に仮使用するための申請がなされたもの ②消防法第17条に規定する消防用設備等の増設・移設等の工事により当該設備の機能を停止させるもの又は機能に著しく影響を及ぼすもの ③人命安全対策上又は火災予防上必要と消防署長が認めるものについて、工事中の消防計画の届出を指導しています。実務でいちばん多いのは②です。感知器の移設・撤去、スプリンクラー配管の水抜き、防火シャッターの改修などは②に当たり得ます。工事の規模ではなく、消防用設備等や避難施設に触れるかどうかで判断してください。


Q7. 工事中の消防計画は、だれが作成して、だれが届け出るのですか。

区分によって異なります。新築工事の義務対象では、管理権原者が選任した防火管理者が作成・届出をします。この管理権原者は施主ではなく、工事現場の作業管理、工事に関する物品管理等に係る管理権原を有する工事の受注者等です(東京消防庁の整理)。新築工事の指導対象では工事施工責任者が作成・届出をします(防火管理者の選任は不要)。既存建物の工事では、その建物の防火管理者、工事が2以上の管理権原者に及ぶ統括防火管理義務対象物では統括防火管理者が作成します。なお新築工事中の建築物は消防法施行令第3条第1項第1号により甲種防火対象物にあたるため、防火管理者は甲種の資格が必要です。


Q8. 工事中の消防計画はいつまでに、どこへ提出しますか。期限はありますか。

条文上の提出期限は定められていません。提出先は建物の所在地を管轄する消防署(窓口は予防課)です。期限がないからといって後回しにしてよいわけではなく、実務上は工事着手前、遅くとも消防用設備等の機能を停止する作業の前までに提出します。部数は届出書および計画書1部(控えが必要な場合は2部)で、窓口持参・郵送のほか電子申請も利用できます。窓口の受付時間は平日午前8時30分から午後5時15分までです。着工の1か月前までに所轄消防署の予防課へ事前相談することをおすすめします。


Q9. 工事で自動火災報知設備を止めます。どのように扱えばよいですか。

消防用設備等の機能停止は、東京消防庁が工事中の消防計画の届出を指導する典型的な場面です。総務省消防庁の通知(令和8年3月30日付け消防予第120号)は、「改修工事中においても、原則として消防用設備等の機能を維持する必要があるが、一部機能を停止させる必要のある場合は、停止させる範囲や時間を必要最小限とするとともに、工期や作業内容等に応じて代替設備の設置や巡回警戒等の対策を講じること」としています。消防計画には、停止する設備の種類と範囲、期間と時間帯、代替措置(消火器の増設、仮設警報装置、巡回警戒の頻度と担当者)、復旧の手順と確認者、停止中に火災が発生した場合の通報・初期消火・避難誘導の手順を具体的に記載してください。統括防火管理義務対象物では、ビルの統括防火管理者への事前連絡も必須です。


Q10. 工事中の消防計画を届け出なかった場合、罰則はありますか。

工事中の消防計画の未届出そのものに直接の罰則はありませんが、命令を経由して罰則につながります。防火管理者が定められていない場合、消防長又は消防署長は選任命令を発することができ(消防法第8条第3項)、この命令に違反すると6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(同法第42条第1項第1号)です。防火管理上必要な業務が法令や消防計画に従って行われていない場合の措置命令(同法第8条第4項)に違反すると1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(同法第41条第1項第2号)となります。また、防火管理者の選任・解任の届出(同法第8条第2項)を怠ると30万円以下の罰金又は拘留(同法第44条第8号)です。法人にも両罰規定(同法第45条第3号)が適用されます。


Q11. 工事中の消防計画と、防火対象物工事等計画届出書・使用開始届出書はどう違いますか。

目的も根拠も期限も別の手続です。防火対象物工事等計画届出書は東京都火災予防条例第56条第1項に基づき、指定防火対象物等の建築・修繕・模様替え等をしようとする者が工事着手の7日前までに届け出るものです。防火対象物使用開始届出書は同条例第56条の2第1項に基づき、建物やその部分を使用しようとする者が使用開始の7日前までに届け出るものです。工事中の消防計画は、工事期間中の防火管理体制(自衛消防組織、火気管理、設備停止時の代替措置など)を定める文書で、期限の定めがありません。内装工事を伴うテナント入居では、これら3つがすべて必要になることがあります。あわせて、消防用設備等の工事には着工届(消防法第17条の14・工事着手の10日前まで・甲種消防設備士)と設置届(同法第17条の3の2・工事完了後4日以内)が必要です。


Q12. 工事中の消防計画の作成を行政書士に依頼できますか。

できます。工事中の消防計画作成(変更)届出書は消防署長あてに提出する書類ですので、その作成は行政書士の業務であり(行政書士法第1条の3第1項)、官公署への提出手続の代理も業務範囲に含まれます(同法第1条の4第1項第1号)。他人の依頼を受け報酬を得て業として作成できるのは、原則として行政書士・行政書士法人に限られ(同法第19条第1項)、違反には1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金が定められています(同法第21条の2)。ただし、防火管理体制や工事の施工方法そのものを決めるのは事業者・施工者です。また、工事整備対象設備等着工届出書は消防法第17条の14により甲種消防設備士が届出義務者と定められているため、行政書士が代わって届け出ることはできません。報酬額は工事の規模・工期・設備停止の有無・事前協議の回数によって変わるため、当事務所の報酬額表(税抜)をご確認いただくか、工事の概要をお知らせのうえお見積りをご依頼ください。


参考資料

※本記事は2026年8月23日時点で確認した法令および公表資料をもとにした一般的な解説です。法令・条例の改正、東京消防庁の指導基準・審査基準の改正、所轄消防署の運用、個別の建物や工事の状況により結論が変わる場合があります。具体的な案件は、対象建物を管轄する消防署および行政書士へご確認ください。

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