この記事では、消防用設備等設置届出書の基礎知識から、誰が書類を作成できるのか、消防庁通知の内容、2026年1月行政書士法改正によって明確化された違反した場合のリスク、そして適法に手続きを進めるための方法まで、消防法専門の行政書士がわかりやすく解説します。

消防用設備等設置届出書は、消防法第17条の3の2に基づき、建物に消防用設備等を設置したときに消防署へ提出が義務付けられている書類です。消火器、自動火災報知設備、スプリンクラー設備、屋内消火栓設備、避難器具など、消防法令で設置が義務付けられるあらゆる消防用設備がその対象となります。
新規に消防用設備等を設置した場合はもちろん、既存設備の改修や更新を行った場合にも届出が必要です。つまり、消防用設備に関する工事を行ったときは、原則としてすべて設置届出の対象になると考えておくべきでしょう。
具体的には、以下のような場面で届出が必要です。
法令上、届出書に記載される届出者は「消防用設備等を設置した関係者」とされています。ここでいう「関係者」とは一般的に消防用設備等の所有権を有する方を指しますが、建物の所有者やテナントの占有者等、状況に応じて変わります。
届出者は「工事を行った消防設備業者」ではありません。消防設備業者が届出者になることはできない点に注意が必要です。
消防用設備等設置届出書の提出期限は、消防用設備等の設置工事が完了した日からわずか4日以内です。この期限を過ぎてしまうと消防法違反となり、開業スケジュールにも大きな影響を与えかねません。
届出を提出した後は、原則として消防署による設置検査を受ける必要があります。検査の日程は届出の受付時に窓口で調整するのが一般的です。検査に合格すると検査済証が交付され、これをもって消防用設備等が法令基準に適合していることが公的に証明されます。
届出書本体に加えて、消防用設備等試験結果報告書をはじめとする各種添付書類が必要です。設備の種類によって必要な書類は異なります。自動火災報知設備であれば自火報の試験結果報告書、屋内消火栓設備であれば屋内消火栓の試験結果報告書というように、設備ごとに定められた様式の報告書を添付しなければなりません。これらは、消防設備士を雇用する消防設備施工者が作成することができます。
2025年(令和7年)2月25日、消防庁は全国の消防機関に対して「消防法令に基づく各種手続における行政書士法違反の防止について」(消防予第75号、消防危第30号、消防特第35号)という通知を発出しました。この通知は、消防関連業界に大きな反響を呼びました。
通知の核心は明確です。行政書士法第1条の2および第19条の規定により、行政書士または行政書士法人でない者が、他人の依頼を受け報酬を得て官公署に提出する書類を作成することは禁止されている——これは消防法令に基づく手続きにおいても例外ではない、ということです。
消防法令に基づく手続きとは、火災予防、危険物保安、石油コンビナート等の保安の各分野における手続きを指します。消防用設備等設置届出書はもちろん、防火対象物使用開始届出書、消防計画作成届出書、防火管理者選任届出書なども含まれます。(東京都火災予防条例に基づく工事計画等届出書を含む)
通知では各消防機関に対して、以下の対応が要請されています。
つまり、今後は消防署の窓口でも行政書士法違反に対するチェックが強化される可能性が高いということです。
消防庁通知に続き、さらに大きなインパクトを与えたのが、令和7年(2025年)6月13日に公布された「行政書士法の一部を改正する法律」(令和7年法律第65号)です。この改正法は令和8年(2026年)1月1日に施行され、非行政書士による違法行為の禁止がこれまで以上に明確化されました。
今回の改正で最も注目すべきは、行政書士法第19条第1項の業務制限規定です。
| 改正前 | 改正後 |
|---|---|
| 行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない。 | 行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。 |
つまり、「手数料」「コンサルタント料」「事務サービス料」「会費」「支援委託費」など、どのような名目で対価を受け取っていても、官公署に提出する書類の作成を業として行えば行政書士法違反になるということが、条文上明示されたのです。
この改正は新たなルールの創設ではありません。従来から違法であった行為について、その解釈を条文に明示し、違反行為の更なる抑制を図る趣旨です。「以前は問題なかった」という認識は誤りであり、改正前から違法だったことが改めて明確化された点に注意が必要です。
改正法の公布と同日、総務省自治行政局長から各府省官房長等に対して「行政書士法の一部を改正する法律の公布について」(総行行第281号)が通知されました。また、総務省自治行政局行政課長からも関連通知(総行行第283号)が発出されています。
これらの通知では、改正の趣旨として以下の点が明確に説明されています。
つまり、消防署だけでなくすべての官公署の窓口で、非行政書士による書類作成への監視が強化される流れにあるのです。
もうひとつの重要な改正が、両罰規定の整備(第23条の3)です。改正前は違反した個人のみが処罰対象でしたが、改正後は違反行為が法人の業務として行われた場合、行為者個人だけでなく所属する法人に対しても100万円以下の罰金刑が科されることになりました。
これは消防設備業者や管理会社にとって極めて重大な変更です。たとえば、消防設備会社の社員が業務の一環として消防届出書類を作成し、その対価が会社の売上に含まれていた場合、社員個人だけでなく会社自体も処罰の対象となり得るのです。
この一連の法改正と通知は、消防用設備等設置届出書の作成実務にも直接影響します。令和7年2月の消防庁通知と、令和7年6月の行政書士法改正・総務省通知が組み合わさることで、消防関連の書類作成において非行政書士による代行が許容されない体制が、法的にも運用面でも確立されつつあります。
では、具体的にどのような場合が行政書士法違反に該当し、どのような場合は問題ないのでしょうか。ここが最も実務上重要なポイントです。
| ケース | 解説 |
|---|---|
| 消防設備業者が報酬を得て届出書を作成 | 行政書士資格を持たない消防設備業者が、工事代金とは別に(または工事代金に含める形で)届出書の作成費用を受領して届出書を作成する場合、行政書士法第19条に違反する可能性があります。 |
| コンサルタントが代行作成 | 元消防士や防災コンサルタントが、行政書士資格を持たずに報酬を得て消防届出書類を作成する場合も同様に違反となる可能性があります。 |
| ビル管理会社が管理料に含めて作成 | 管理業務委託契約の一環として、無資格者が消防届出書類の作成を行い、管理料に含む形で報酬を得ている場合も違反のリスクがあります。 |
| 「作成費は無料」だが他の費用に上乗せ | 書類作成自体は無償でも、他のサービスに価格を上乗せしている場合は、実質的に報酬を得ているとみなされる可能性があります。 |
| ケース | 解説 |
|---|---|
| 建物関係者(オーナー等)が自ら作成 | 届出義務者である建物関係者自身が書類を作成・提出するのは当然適法です。 |
| 防火管理者が自ら消防計画を作成 | 防火管理者が自身の責務として消防計画を作成し届出することは問題ありません。 |
| 消防設備士が自ら行った工事の試験結果報告書を作成 | 消防設備士が自ら実施した工事・点検に関する試験結果報告書を作成することは、消防法上の独占業務として認められます。 |
| 行政書士または行政書士法人に依頼 | 行政書士は官公署提出書類の作成を業とする国家資格者であり、消防届出書類の作成・提出代理は正当な業務です。 |
行政書士法違反は、書類を作成した無資格者だけでなく、依頼した事業者にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。令和8年の法改正により、罰則の適用範囲がさらに拡大しました。
行政書士法第21条により、行政書士等でない者が報酬を得て官公署提出書類を作成した場合、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される可能性があります。これは決して軽い罰則ではありません。
令和8年1月施行の改正により、新たに両罰規定(第23条の3)が整備されました。これにより、違反行為を行った社員個人だけでなく、その社員が所属する法人(会社)に対しても100万円以下の罰金刑が科されます。消防設備業者やビル管理会社が組織的に届出書類の作成代行を行っていた場合、会社ぐるみでの処罰対象となるリスクがあります。
両罰規定の新設により、「社員が勝手にやったこと」という言い逃れは通用しなくなりました。法人としてのコンプライアンス体制の構築が急務です。
消防署の審査担当者が書類の作成者が適法でないことを認識した場合、書類の受理を拒否する可能性があります。消防庁通知および総務省通知により窓口での注意喚起が強化されていることから、審査の厳格化はすでに進んでいます。
仮に一度受理された書類であっても、後から違法に作成されたことが発覚した場合、行政手続きの適正性に疑義が生じます。許可や認可の前提となる書類であれば、許可の取消しや行政指導の対象になることもあり得ます。
無資格者に依頼した事業者も、手続きの不備や遅延、許可の取消しなどのリスクを負います。特に開業を控えている場合、書類の再作成や再提出により開業スケジュールが大幅に遅れることは、経済的にも大きな打撃です。法令遵守・コンプライアンスの観点からも、依頼先の資格確認は慎重に行うべきです。
消防設備に関する手続きをスムーズに進めるためには、消防設備士と行政書士がそれぞれの専門性を活かして連携することが最も効果的です。
| 担当 | 消防設備士の役割 | 行政書士の役割 |
|---|---|---|
| 設計・施工 | 消防用設備等の設計・設置工事 | ― |
| 試験・点検 | 設備の作動試験・機能試験の実施 | ― |
| 技術書類 | 試験結果報告書・設備概要表・図面の作成 | ― |
| 届出書本体 | ― | 設置届出書の作成 |
| 添付書類の整理 | ― | 必要書類の確認・整理・構成 |
| 消防署への提出 | ― | 届出書の提出代理 |
| 検査対応 | 設備の動作確認・技術説明 | 書類面の確認・消防署との調整 |
このように、消防設備士は設備の「ハード面(モノ・技術)」を、行政書士は手続きの「ソフト面(書類・法令)」を担当するのが適法な役割分担です。両者がそれぞれの守備範囲を守りながら連携することで、建物オーナーや事業者は安心して消防手続きを進めることができます。
建物オーナーや事業者の方は、消防手続きの外部委託にあたって以下の点に注意してください。
消防届出書類の作成を外部に依頼する場合は、まず相手が行政書士または行政書士法人であるかを確認しましょう。行政書士事務所であれば、必ず資格者名が明記されているはずです。ホームページや名刺に行政書士の登録番号が記載されているかどうかがひとつの判断基準になります。
消防設備工事と届出書類の作成を「一式○○円」でまとめて請け負う業者の場合、書類作成部分が行政書士法違反に該当しないか確認が必要です。改正後の行政書士法第19条は「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」と明記しています。工事代金に含める形でも、サービス料として受け取っていても、実質的に報酬を得て書類を作成していれば違法となり得ます。
インターネット上には、元消防士や防災コンサルタントを名乗り、消防届出書類の作成代行サービスを提供する業者が散見されます。消防の実務経験が豊富であっても、行政書士資格を持たずに報酬を得て書類作成を行えば行政書士法違反です。依頼する前に、その業者が行政書士資格を保有しているか、または行政書士と正式に連携しているかを必ず確認してください。
両罰規定の新設により、法人自体も処罰の対象となりました。消防設備業者やビル管理会社は、自社の業務フローの中で消防届出書類の作成・提出を行っている部分がないか点検し、該当する業務がある場合は行政書士への外部委託に切り替える体制を整備する必要があります。
消防用設備等設置届出書をはじめ、防火対象物使用開始届、消防計画、防火管理者選任届など、消防署への各種届出を適法かつ確実に代行いたします。消防設備業者様との連携体制も整っておりますので、技術面・手続き面の両方を安心してお任せいただけます。
🌐 東京の消防手続支援ステーション(shoubou.tokyo.jp)
行政書士萩本昌史事務所|東京都