/ 著者: 萩本昌史(特定行政書士)
「受変電設備を新設するけど、消防への届出は必要?」「蓄電池設備を導入したいが、どの書類を出せばいいかわからない…」——こうしたお悩みは、ビル管理者やオーナーの方から非常に多く寄せられます。
火災予防条例では、一定規模以上の電気設備を「火災の発生のおそれのある設備」と位置づけており、設置する7日前までに管轄消防署への届出が義務づけられています。届出を怠ると、消防署から行政指導を受けるだけでなく、万一の火災時に重大な責任問題に発展する可能性もあります。
この記事では、消防法・火災予防条例に精通した行政書士が、電気設備設置(変更)届出書の対象設備、届出の流れ、必要書類、届出後の検査まで、実務に即してわかりやすく解説します。
電気設備設置(変更)届出書は、建物の内外に一定規模以上の電気設備を設置する際に、管轄の消防署へ提出が義務づけられている届出書です。
この届出の法的根拠は、東京都火災予防条例第56条(※東京都の場合)です。火災予防条例では、電気設備を「その使用に際し、火災の発生のおそれのある設備」として分類しており、設備の設置状況を消防機関があらかじめ把握するための制度として位置づけられています。
届出が必要なのは「新設」の場合だけではありません。増設・改設・移設など、既存の電気設備に変更を加える場合にも届出が求められます。
すべての電気設備が届出の対象になるわけではありません。火災予防条例に基づき、設備の種類ごとに「一定以上の規模」に該当するものだけが届出対象です。具体的には以下の5種類です。
| 電気設備の種類 | 届出が必要な規模 | 届出が不要な規模 |
|---|---|---|
| 高圧又は特別高圧の変電設備 | 全出力20kW超 | 全出力20kW以下 |
| 急速充電設備 | 全出力50kW超 | 全出力50kW以下 |
| 内燃機関を原動力とする発電設備 | 原則すべて届出が必要 | 屋外設置で気体燃料のピストン式・出力10kW未満の一部 |
| 蓄電池設備 | 蓄電池容量20kWh超 | 蓄電池容量20kWh以下 |
| ネオン管灯設備 | 設備容量2kVA以上 | 設備容量2kVA未満 |
オフィスビルや商業施設では、高圧(6,600V)で受電し、低圧(100V/200V)に変換するキュービクル式の受変電設備が広く使用されています。全出力が20kWを超える場合は届出の対象となります。ビルの新築やテナント入替えに伴う電気容量の増設時に届出が必要になるケースが多く見られます。
電気自動車(EV)の普及に伴い、急速充電設備の設置が増えています。全出力50kWを超える急速充電設備が届出の対象です。近年の高出力充電器(90kW〜150kW級)は、ほぼ確実に届出が必要になります。
蓄電池設備については、令和5年12月14日の火災予防条例改正により、届出基準が大きく変わりました。
電気設備設置届出書をめぐっては、「届出書は工事業者がまとめて作ってくれるもの」という誤解が根強くあります。しかし、届出書本体の作成と工事関係書類(図面・仕様書等)の作成は、法律上まったく異なる性質の業務です。ここを正しく理解しておかないと、知らないうちに行政書士法違反を犯してしまうリスクがあります。
電気設備設置(変更)届出書は、消防署長(官公署)に提出する書類です。行政書士法第1条の2は、「他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類を作成すること」を行政書士の業務と定めています。そして、同法第19条第1項により、行政書士又は行政書士法人でない者がこの業務を「業として」行うことは禁止されています。
つまり、電気設備設置届出書の作成・提出代行を他人の依頼を受けて報酬を得て行えるのは、行政書士(又は行政書士法人)だけです。
一方、届出に添付する機器配置図・単線結線図・構造図・仕様書などの工事関係書類は、設備の技術的内容に関する資料であり、電気工事会社やメーカーが自社の専門知識に基づいて作成するものです。概要表に記載する設備のスペック(出力・容量・型式等)も、施工者が技術データとして提供するのが通常です。
以下の表で、施工者と行政書士の役割分担を整理します。
| 書類の種類 | 作成者 | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| 電気設備等設置(変更)届出書(本体) | 行政書士 | 官公署に提出する書類 → 行政書士法第1条の2の独占業務 |
| 防火対象物・製造所等の概要表 | 行政書士 | 届出書に添付して消防署に提出する書類 |
| 各設備の概要表(変電・蓄電池・急速充電等) | 行政書士(技術データは施工者が提供) | 書類としての作成は行政書士、スペック等の情報提供は施工者 |
| 機器配置図・単線結線図 | 施工者(電気工事会社等) | 工事の技術的資料。施工者が自社業務として作成 |
| 設備仕様書・構造図 | 施工者・メーカー | 設備の技術仕様に関する資料 |
| 平面図・立面図・断面図 | 設計者・施工者 | 建築・設備工事に付随する図面 |
「電気工事の一環として届出書も作ってあげます」——現場ではよく聞かれるこの言葉ですが、実はこれが行政書士法第19条第1項に違反する行為になり得ます。
行政書士法の業務制限規定を整理すると、以下のようになります。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 第1条の2 | 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類を作成することを業とする |
| 第19条第1項 | 行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受け、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第1条の2の業務を行うことができない |
| 第21条の2 | 第19条第1項に違反した者は、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
| 第23条の3(両罰規定) | 法人の従業者が違反行為をした場合、行為者を罰するほか、その法人に対しても100万円以下の罰金 |
ここで重要なのは、令和8年1月1日施行の改正行政書士法で「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言が追加された点です。従来は「工事代金の中に含まれているだけだから報酬ではない」という弁解が通用する余地がありましたが、改正後は名目を問わず違法となることが明確になりました。
【違反例①】工事代金に届出書作成費用を含めるケース
電気工事会社が変電設備の新設工事を受注し、見積書に「届出手続き一式」として消防署への届出書の作成・提出費用を工事代金に含めている。
→ 工事代金の一部であっても、実質的に報酬を得て官公署提出書類を作成しており、行政書士法第19条第1項に違反します。改正法では「いかなる名目によるかを問わず」と明記されたため、「工事費に含まれているだけ」「サービスで無料」という弁解は通用しません。
【違反例②】「手続き代行費」「事務手数料」名目で届出書を作成するケース
設備メーカーの営業担当が「うちで手続きも全部やりますよ」と提案し、「事務手数料」や「手続き代行費」の名目で費用を請求。届出書本体を作成して消防署に提出した。
→ 名目が「事務手数料」「コンサル料」「代行費」等のいずれであっても、官公署に提出する書類を他人の依頼を受けて作成・提出する行為は行政書士の独占業務であり、違反行為です。
【違反例③】施工者が「無料サービス」として届出書を作成するケース
電気工事会社が「届出書の作成は無料でやります」と顧客にアピールし、工事代金には含めていないと主張。しかし、工事受注の一環として反復継続的に届出書を作成している。
→ 表面上は無料でも、工事契約全体の中で対価関係が認められれば「報酬を得て」に該当します。また、反復継続的に行っている以上「業として」の要件も満たし、違反となる可能性が高いと考えられます。
改正行政書士法で特に注目すべきは、第23条の3の両罰規定の整備です。これにより、従業員が業務の一環として行政書士法違反の行為を行った場合、その従業員個人だけでなく、所属する法人(会社)に対しても100万円以下の罰金が科される可能性があります。
「現場の担当者がサービスでやっただけ」「会社としては関知していない」という弁解は通用せず、会社の管理体制やコンプライアンス意識が厳しく問われることになります。
届出に必要な書類は、メインの届出書と設備ごとの概要表の2本柱です。
| 書類名 | 概要 |
|---|---|
| ①電気設備等設置(変更)届出書 | すべての届出で必須となる基本書類 |
| ②防火対象物・製造所等の概要表 | 建物の概要を記載 |
| ③変電設備概要表 | 変電設備を設置する場合 |
| ④急速充電設備概要表 | 急速充電設備を設置する場合 |
| ⑤発電設備概要表 | 内燃機関を原動力とする発電設備の場合 |
| ⑥蓄電池設備概要表 | 蓄電池設備を設置する場合 |
| ⑦ネオン管灯設備概要表 | ネオン管灯設備を設置する場合 |
| ⑧負荷設備概要表 | 必要に応じて添付 |
これらの様式は、東京消防庁のウェブサイトからWord形式・PDF形式でダウンロードできます。記入例も公開されていますので、初めての方はあわせて参照してください。
東京消防庁管内では、以下の3つの方法で届出が可能です。
| 届出方法 | 特徴 |
|---|---|
| 電子申請 | Graffer経由でオンライン提出が可能。24時間受付。 |
| 窓口申請 | 管轄消防署の予防課へ直接持参。検査日程の相談もその場で可能。 |
| 郵送 | 管轄消防署へ郵送。別途、検査日程について電話連絡が必要。 |
電気設備設置届出書を提出しただけでは手続きは完了しません。工事完了後、電気設備の使用を開始する前に、消防署による検査を受ける必要があります。
消防検査では、火災予防条例で定められた設備の位置・構造・管理基準への適合状況が確認されます。具体的には、以下のような項目がチェックされます。
届出の内容によっては、検査が省略されるケースもあります。たとえば、既設のキュービクル内での軽微な変更など、火災予防上の影響が小さいと判断される場合が該当します。省略の可否は消防署が判断しますので、届出時に確認してください。
検査で不適合事項が指摘された場合は、改修(計画)報告書の提出が必要です。提出期限は検査結果通知書の交付時に示されます。報告書の様式も東京消防庁のサイトからダウンロード可能で、電子申請にも対応しています。
令和5年12月14日の火災予防条例改正は、蓄電池設備の届出基準に大きな影響を与えました。この改正のポイントを整理しておきましょう。
従来の規制基準は「4,800Ah・セル」という単位で設定されていましたが、蓄電池の種類(鉛蓄電池・アルカリ蓄電池・リチウムイオン電池)によって1セルあたりの電圧が異なるため、同じ「4,800Ah・セル」でも保有する電気エネルギー量に大きな差がありました。
蓄電池設備の火災リスクは保有する電気エネルギーの大きさ(kWh)に依存すると考えられることから、規制単位が「Ah・セル」から「kWh」に改められました。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 届出基準 | 4,800Ah・セル以上 | 蓄電池容量20kWh超 |
| 規制単位 | Ah・セル(電池種別で電力量が異なる) | kWh(電力量で統一評価) |
消防法令上の蓄電池容量は、以下の電圧を使って算出します。
| 電池種別 | 1セルあたり電圧 |
|---|---|
| 鉛蓄電池 | 2V/セル |
| アルカリ蓄電池 | 1.2V/セル |
| リチウムイオン電池 | 3.7V/セル(製造元・種別問わず一律) |
計算式:1セルあたり電圧(V)× 定格容量(Ah)× セル数 = 蓄電池容量(Wh → kWhに換算)
例:鉛蓄電池 150Ah × 54セルの場合
2V × 150Ah × 54セル = 16,200Wh = 16.2kWh → 届出不要(20kWh以下のため)
改正前の基準では 150Ah × 54セル = 8,100Ah・セルで届出が必要でしたが、改正後は不要となりました。このように、改正によって届出が不要になるケースもあります。
逆に、リチウムイオン電池は1セルあたりの電圧が3.7Vと高いため、改正によって新たに届出が必要になるケースもあります。既設の蓄電池設備についても、改正後の基準に照らして確認しておくことをおすすめします。
電気設備設置届出書の提出は、火災予防条例に基づく法的義務です。届出を怠った場合、以下のようなリスクが考えられます。
消防署による立入検査(査察)で届出漏れが発覚した場合、是正を求める行政指導が行われます。指導に応じなければ、条例違反として命令が出される可能性もあります。
万一、無届の電気設備から出火した場合、建物所有者・管理者として重大な管理責任を問われる可能性があります。保険会社との交渉でも不利に働く要因となりえます。
消防法令への適合状況は、テナント企業の入居審査やESG評価に影響する場合もあります。法令遵守の姿勢は、ビル経営において重要な信頼基盤です。
電気設備設置届出書は、設備の種類ごとに異なる概要表を使い分ける必要があり、さらに防火対象物使用開始届出書や少量危険物届出書など、他の消防届出と連動して手続きが必要になることも少なくありません。
前述のとおり、令和8年1月1日施行の改正行政書士法により、施工者が届出書の作成を業として行うことへの規制が強化されました。「工事代金に含まれているだけ」「サービスの一環」といった弁解は通用せず、両罰規定(第23条の3)により法人も処罰対象となります。
行政書士に届出書作成を依頼することで、施工者・ビルオーナーの双方が行政書士法違反リスクから解放されます。施工者は工事図面の作成や技術データの提供という本来業務に専念でき、見積書・契約書上も「工事」と「届出書作成」が明確に分離されるため、コンプライアンス上の問題が生じません。
消防法に精通した行政書士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。
変電設備・蓄電池設備・急速充電設備・発電設備——
どの届出が必要か判断がつかない場合も、
消防法に精通した行政書士がわかりやすくご案内します。
03-6783-6727
行政書士萩本昌史事務所